ハードル走のコツは、たったひとつに集約できます。「跳ぶ」のをやめて「走り越える」こと。日本陸上競技連盟(以下、日本陸連)が公開する中学校部活動向けの指導資料は、踏み切りについて「上にジャンプするのではなく前方に向かって身体を動かします」と明記しています。ハードルは越える障害物ではなく、走りの途中にある通過点です。この記事では、踏み切りと着地の距離の比率、抜き脚の角度の基準、多くの人がつまずく「3歩が合わない」問題の直し方まで、公式資料の数値と現場の指導者の言葉をもとに順番に解説します。

この記事でわかること

  • ハードリングを踏み切り・クリアランス・着地の3局面に分けた、局面ごとの合格ライン
  • スタートから第1ハードルまで8歩、インターバル3歩を実際に作る手順
  • 「3歩で届かない」「3歩目が詰まる」を症状別に直す診断表と練習設定
  • 日本陸連が示す6ステップの段階練習と、抜き脚ドリルの落とし穴
  • 小学生から一般までのハードル公式規格早見表と、意外と知られていない失格ルール

ハードル走のコツは「跳ぶ」をやめて「走り越える」こと

ハードル走が速い人と遅い人の差は、ハードルの上ではなくハードルとハードルの間についています。空中にいる時間が長いほど、その間は加速も減速の立て直しもできません。だからこそ、上達の入り口は「いかに高く跳ぶか」ではなく「いかに走りを止めずに通過するか」になります。

世界陸上の男子400mハードルで日本人初のメダルを獲得した為末大氏は、スポーツナビに掲載されたハードル解説記事(2025年9月)で、この種目の構造をこう言い切っています。

「跳ぶということは、走っている状態にブレーキをかけるようなものです」

そして種目の特徴を「アクセルを踏みつづけると同時に、いかにブレーキによる減速を小さくするか」と表現しています。ハードリングの技術とは、うまく跳ぶ技術ではなく、ブレーキを小さくする技術だということです。

まず押さえる3つの原則

日本陸連の『中学校部活動における陸上競技指導の手引き』は、ハードル走に必要な力を「スプリント」と「ハードリング(ハードルを越える技術)」の2つとしたうえで、この2つが一連の流れになるよう、できるだけスプリント動作に近い状態で越えることを求めています。ここから導かれる原則が3つです。

  1. 上ではなく前へ。 踏み切りでは重心を高く保ち、前方に身体を運びます。上に跳んだ分だけ滞空時間が伸び、着地の衝撃も増えます。
  2. 滞空時間をできるだけ短く。 同資料は、滞空時間を短くして次の走りへの準備をすると述べています。空中で「良いフォームを作る」のではなく、空中を早く終わらせるのが目的です。
  3. 踏み切りは遠く、着地は近く。 同資料は、踏み切り位置からハードルまでと、ハードルから着地位置までの距離の比率を約2対1(2/3対1/3)と図解しています。ハードルの直前で踏み切るほど、身体は上に打ち上げられます。

この「約2対1」は、ハードル走のコツの中でもっとも具体的で、そのまま練習の合言葉にできる数値です。「もっと遠くから」と言われてもピンとこないときは、着地点がハードルのすぐ先に来ているかを仲間に見てもらってください。

上達の順番は「歩数 → ハードリング → スピード」

初心者がいきなりフォームから入ると、たいてい失敗します。歩数が合っていない状態では踏み切り位置が毎回ずれるため、どんなフォームを練習しても再現できないからです。順番は次のとおりです。

段階やることできた目安
1. 歩数を合わせる自分に合ったインターバルを選び、決まった足で踏み切る3台以上、毎回同じ足で踏み切れる
2. ハードリングを覚えるリード脚・抜き脚・上体の使い方をドリルで分解して習得抜き脚がハードルに当たらず、着地で腰が落ちない
3. スピードを上げる正規の高さ・間隔で、ハードル間を加速して走るハードル間で減速せず走り切れる

なお、走力そのものの目安について、静岡陸上競技協会の指導者講習会資料「100mH、110mHについて」でショートハードルを担当した伊郷氏は「ハードルを全力疾走で10台越えていくためには、200mを終盤まで走り切ることのできる走力が必要」と述べています。ハードルの練習だけをしていても頭打ちになる、ということです。

ハードル種目の日本記録

目標像として、現在の日本記録を挙げておきます。いずれも日本陸連公式の日本記録ページ(男子女子)で確認できる数値です。

種目記録選手(所属)樹立日・場所
男子110mH(1.067m)12.92村竹ラシッド(JAL)2025年8月16日・福井
女子100mH12.60中島ひとみ(長谷川体育施設)2026年8月15日・福井
男子400mH47.89為末大(法政大)2001年8月10日・エドモントン
女子400mH55.34久保倉里美(新潟アルビレックスRC)2011年6月26日・長居

ハードリングのコツ|踏み切り・クリアランス・着地の3局面

日本陸連の手引きは、ハードリングを踏み切り/クリアランス(空中)/着地の3局面に分けて説明しています。局面ごとに、押さえるべき点とやりがちな失敗を整理します。

踏み切り|「膝と両肩から向かっていく」

踏み切りでは、ハードルに正対した状態で、リード脚(前に振り出す脚)の膝と両肩から向かっていくイメージを持ちます。膝だけを上げようとすると上体が置き去りになり、身体が起きたまま空中に放り出されます。肩ごと前に運ぶ意識があると、自然に上体が前傾し、前方向に身体が進みます。

ここで効いてくるのが前述の「約2対1」です。遠くから踏み切るためにはハードルの手前で歩幅を詰めてしまわないことが大切で、そのためにも歩数が合っている必要があります。

元十種競技選手で陸上競技コーチの林田章紀氏は、初心者向けの抜き足ドリルを解説したnoteで、抜き足に悩む初心者に対して「先にハードルを越えていくのはリード足だ。リード足が大きく動作するからこそ、それに対して抜き足も大きな動作をする」と述べ、抜き足単体ではなく踏み切りとリード脚から直すべきだと指摘しています。抜き足が引っかかるとき、原因が抜き足にあるとは限りません。

クリアランス|抜き脚には数値の基準がある

空中では、リード脚を積極的に前方へ伸ばし、越えたら素早く下ろします。上体はやや前傾させ、リード脚と逆側の腕を前へ出すことでバランスを取ります。

抜き脚(抜き足とも呼ばれる、後ろから引き抜く脚)については、手引きが珍しく具体的な数値基準を示しています。

  • 大腿部(太もも)が地面とほぼ水平
  • 大腿と下腿(すね)のなす角度が約90度、またはそれ以下
  • 足関節は背屈させ、つま先が下がらないようにする
  • 膝は高い位置をキープし、できるだけ身体の近くを通過させて前へ出す

抜き脚は「コンパクトに折り畳んで、脇の下を通して前に引き出す」と表現されています。つま先が下がるとハードルに引っかかるので、足首を反らせておく(背屈)意識は、抜き脚がうまくいかない人がまず直すべき一点です。

着地|腰を落とさず、「落ちてくるのを待つ」

着地で腰が落ちて「くの字」になると、そこでブレーキがかかり、次のインターバルが一気に苦しくなります。手引きが求めるのは次の3つです。

  • 腰の位置を落とさない
  • リード脚(着地脚)は膝を伸ばし、前足部で着地する
  • 抜き脚は素早く前方に引き出し、腰の位置と抜き脚の膝を高く保つ

着地は「衝撃を受け止める場所」ではなく「次の1歩目を出す場所」です。ここで多くの選手が焦って脚を振り下ろしにいきますが、前出の伊郷氏は講習会資料で「いかに速く走ろうと思っても、ハードリングに対し、反発して振り下ろしにかかると、接地がズレる」と警告し、こう続けています。

「着地では、自分の自体重が落下してくるまで待つこと。」 「落下時を完璧にキャッチして初めて走り出しができる。」

早く走り出したいから早く脚を下ろす、が裏目に出るということです。着地が毎回バラつく人は、下ろしにいっていないかを確認してみてください。

局面別チェックリスト

局面できている状態ありがちなNG
踏み切り重心が高く、身体が前へ進む。ハードルから遠い位置で踏み切る真上に跳ぶ/ハードル直前で踏み切る/膝だけ上げて上体が残る
クリアランスリード脚を伸ばして素早く下ろす。抜き脚は太ももほぼ水平・膝90度以下・足首背屈抜き脚のつま先が下がる/抜き脚が身体から遠い/腕が左右同時に開く
着地膝を伸ばし前足部で接地、腰が高いまま次の1歩へ腰が落ちてくの字/かかとから着地/振り下ろしにいって接地がズレる

歩数のコツ|スタート8歩・インターバル3歩の作り方

ハードル走で「うまくいかない」の大半は、技術ではなく歩数の問題です。ここを先に片づけると、フォームの練習が一気に効くようになります。

スタートから第1ハードルまでは8歩が基本

日本陸連の手引きによると、スタートから第1ハードルまでは8歩が一般的です。そしてこの場合、踏み切り脚がクラウチングスタートの前脚になります。ここを間違えると、そもそも決まった足で踏み切れません。まずは自分の踏み切り脚を決め、それをスターティングブロックの前足にセットしてください。

もうひとつ、手引きは「スタート後は短距離走よりも早めに身体を起こし、重心を高くして第1ハードルの踏み切りに入る」と述べています。100mのような長い一次加速はできず、8歩で加速しながら踏み切りの準備まで終える必要があるためです。100mと同じ感覚で低く出ると、第1ハードルに間に合いません。

ただし、トップレベルではこの前提が変わりつつあります。為末大氏は前出の記事で「我々の現役時代の110mハードルは、『スタートから1台目まで8歩』『ハードル間を3歩』が主流だったのですが、その後『スタートから1台目まで7歩』という技術が出たんですね」と述べ、「日本人で言えば、今年の世界陸上に出場する村竹ラシッド選手(JAL)や泉谷駿介選手(住友電工)も『7歩』です」と続けています。

ここで注意したいのが、ブロックの足の置き方です。クラウチングスタートは後足が1歩目になるため、8歩なら8歩目は前足、7歩なら7歩目は後足にあたります。つまり同じ脚で踏み切るなら、8歩から7歩に変えたときにブロックの前後足が入れ替わるということです(踏み切り脚そのものを左右入れ替えるわけではありません)。7歩は加速で十分なストライドを稼げてこそ成立する技術なので、中高生の段階ではまず8歩を固めるのが順当ですが、「8歩でないと間違い」ではないことは知っておいてよいでしょう。

スタートそのものの作り方は、スタートダッシュのコツと構え方をまとめた記事で詳しく解説しています。ブロックの前後足の決め方はハードルでもそのまま使えます。

リード足・踏み切り足の決め方

「どっちの足を振り上げればいいのかわからない」という相談はとても多いものです。千葉県教育委員会が公開するハードル走の授業展開資料は、実際に跳んでみて跳びやすいほうを選び、決められない場合は利き脚を振り上げ脚にすると示しています。そして利き脚がわからない場合は「サッカーボールを上手に蹴ることのできる脚が利き脚であることが多い」としています。

まとめると、こうなります。

  • ボールを蹴りやすい足 = 利き脚 = リード脚(振り上げ脚)
  • 反対の足 = 踏み切り脚 = クラウチングスタートの前足

一度決めたら、練習中に左右を入れ替えないでください。ハードル走は同じ足で踏み切り続ける競技なので、途中で変えるとリズムが最初から作り直しになります。

インターバルは3歩。リズムは「トン・ト・ト・トン」

ハードル間は3歩で走るのが基本です。理由は単純で、奇数歩なら毎回同じ足で踏み切れるからです。4歩や6歩の偶数歩だと、1台ごとに踏み切り足が左右入れ替わります。スポーツ庁の『小学校体育(運動領域)指導の手引』も、小学校段階では「インターバルを3歩または5歩で走る」ことを到達点に置いており、競技として3歩を目指す理由はここにあります。

リズムの言語化としては、同じくスポーツ庁の指導の手引が3歩の場合の声かけとして挙げている**「トン・ト・ト・トン」**が使いやすい表現です。着地が「トン」、間の2歩が「ト・ト」、次の踏み切りが「トン」にあたります。日本陸連の手引きも、ハードル間は「重心を高く保ち、リズムよく、速いピッチで走る」ことを重視し、「接地後の足を後ろに流さないようにする」と付け加えています。

3歩のうち、どの1歩を意識すべきかについて、伊郷氏は踏み切りのタイミングをこう具体化しています。

「速いリード脚の準備のために、予備動作として、一歩前の踏み込みが必須。一歩前とは、インターバル3歩目の接地。」

ハードルに入る直前の1歩、つまり3歩目の接地が踏み切りの質を決める、ということです。「踏み切りが弱い」と言われたときに、踏み切りそのものではなくその手前の1歩を見直すのは、現場ならではの視点です。

いきなり3歩に挑まない。まずは5歩から

初心者がやりがちな最大の失敗が、最初から正規のインターバルで3歩に挑むことです。千葉県教育委員会の資料は、この点をはっきり否定しています。「いきなり3歩ハードルだとインターバルが大股になり、スピードが上がらない場合が多い。また、ハードリングにも余裕がなくなる」。

そこで推奨されるのが、5歩ハードルを経由する段階設計です。「5歩だと自然と遠くから踏み切るハードリングができる」とされ、3歩へ進むための導入と位置づけられています。同資料は5歩を次のように分解しています。

カウント内容
0・1ハードルから下りる2歩
2・3次の準備をする2歩
4・5ハードル手前の2歩

5歩用のレーン設定も具体的で、50m内に男子は8m・9m・10m・11m、女子は7m・8m・9m・10mの4レーンを作ります(スタートから1台目までを含む区間設定)。あえて長めのインターバルを置くことで、3歩ではなく5歩で練習させる狙いです。

【上級】400mHの歩数と切り替え

400mHになると、歩数は「3歩」ではなく「15歩」「17歩」といった単位になり、レース後半で歩数を増やす切り替えが必要になります。為末大氏は前出の記事で、自身の現役時代の設定をこう明かしています。

「私の場合は『5台目まで13歩、次の2台が14歩、残りは15歩』と1歩ずつ増やすパターンでしたね。」

そして歩数選択の裏にある事情として、「奇数歩で跳んでいる間は常に同じ足で踏み切れるのですが、偶数歩になると跳ぶ度に踏みきる足が逆になる」と説明しています。偶数歩が苦手な選手は13歩から一気に15歩へ跳ぶことになり、そこで急な減速を強いられるというわけです。

歩数の切り替えについては、ある選手を10年間追った事例研究(『スポーツパフォーマンス研究』第12巻495-522ページ・2020年)にも、実務的な知見が残っています。

  • 57.50秒のレースでは第1〜7ハードルまで15歩。前半は安定したが、後半のストライドが不規則になった
  • 歩数を切り替えるハードルを事前に決めておくことで終盤も17歩に整理でき、53.71秒へ
  • 「トレーニング時では16歩を使えるけど、レースになると自然と無意識のうちに17歩に戻ってしまう」という現場の壁
  • 身長170cmの選手が、ストライドを無理に広げるのは非効率と判断し、15歩でピッチを高める方針に転換
  • 最終的に300mHのトレーニングで8台目まで15歩で押せるようになり、50.30秒へ(高1の初レースは59.69秒)

ポイントは、歩数を「行けるところまで行って崩れたら増やす」のではなく、何台目で切り替えるかを事前に決めて練習することです。同研究は、1/100秒ごとの時刻を付したレース映像をコマ送りしてタッチダウンタイムを計測する方法を紹介し、高価な機材が不要でコーチング現場でも実践しやすい分析方法だとしています。スマホの動画でも十分に着手できます。

3歩が届かない・詰まるときの直し方【症状別】

ここが、ハードル走でもっとも多いつまずきです。原因は複数あるので、症状から逆算して手を打ちます。

症状考えられる原因処方
3歩で届かず、4歩になる/大股になるインターバルに対してスピードとストライドが不足練習用にインターバルを短くする(下表)。まず5歩ハードルで「遠くから踏み切る感覚」を作る
3歩目が詰まって踏み切りが近い踏み切り位置が近すぎる/着地で腰が落ちている着地で腰を落とさない。踏み切りと着地が約2対1になっているか横から撮影して確認
前半は合うが後半で崩れる減速。またはハードル台数が体力に対して多い台数を減らす。減らす場合はゴールに近いハードルを外す(スポーツ庁の指導の手引)
毎回踏み切る足が変わるスタート歩数が定まっていない第1ハードルの横に立ち、いつも決まった足で踏み切っているかを目印で確認する
ハードルが怖くて手前で減速する高さへの恐怖心高さを下げる・用具を代替する(後述の段階練習へ)

練習用インターバルとハードル高さの組み合わせ

正規の間隔で3歩が組めないうちは、間隔と高さを下げて「できている感覚」を作るのが定石です。千葉県教育委員会の資料は、次の対応表を示しています。

男子

インターバルハードル高さ
6.5m76.2cm または 68.0cm
7.0m76.2cm
7.5m83.8cm
8.0m83.8cm または 91.4cm
8.5m91.4cm

女子

インターバルハードル高さ
6.0m60.0cm または 52.0cm
6.5m60.0cm
7.0m68.0cm
7.5m68.0cm または 76.2cm
8.0m76.2cm

50m走のタイムから適切なインターバルを決める

「そもそも自分は何mのインターバルで練習すべきか」を、走力から逆算する基準も同じ資料に示されています。

50m走のタイム適したインターバル
6.9秒以上8.50m
7.0〜7.4秒8.00m
7.5〜7.7秒7.50m
7.8〜8.2秒7.00m
7.8〜8.3秒6.50m
8.4秒〜6.00m

表記は資料のままです。最上段の「6.9秒以上」は、表全体の並びから見て6.9秒より速い層を指します。また7.00mと6.50mの範囲が一部重なっているのも資料どおりです。境目にいる人は、まず広いほうで3歩が組めるか試し、詰まるようなら狭いほうへ落としてください。50m走のタイムは新体力テストでも測る種目なので、ほとんどの人がすでに自分の数値を持っているはずです。

間隔を詰めるときは高さも一緒に下げる、という対応関係になっている点が重要です。間隔だけ詰めると、詰まった状態で高いハードルを跳ぶことになり、かえって「跳ぶ」動作を覚えてしまいます。

なお、歩数を合わせるという発想そのものは跳躍種目とも共通しています。助走の歩数と距離をどう決めるかについては、走り幅跳びの助走の合わせ方を解説した記事の考え方がそのまま応用できます。

ハードル走の練習メニュー|日本陸連の6ステップと段階別の進め方

日本陸連の手引きは、ハードルの段階練習を6ステップで示しています。距離まで明記されているので、そのまま今日の練習に落とせます。

Step内容設定留意点
1リズミカルな走り(マークを3ストライドで越える)間隔6〜7m、マーク幅0.5〜1.5mジャンプせず自然に走る。スピードが上がるにつれマーク幅を広げる
2障害物を越えるリズミカルな走り間隔6〜7m、マーク幅1.5m箱や倒したコーンを置く。前方を見て自然に走る
3ハードルの横に沿って走る間隔7〜8m越える動作よりリズムを強調。リード脚か抜き脚のどちらかだけで越える
4抜き脚のドリル直立→ハードルを置く→歩行やジョグへ
5リード脚と抜き脚の走り間隔7〜8.5m越える高さを左右で変える。最初は急がない
6全体の流れ間隔7〜8.5m、3〜5台前方に集中してハードルを意識しない。ハードル間のスプリントで加速する

Step6の「ハードルを意識しない」は、実は最大のコツかもしれません。ハードルを見つめるほど手前で減速し、踏み切りが近くなります。

抜き脚ドリルは「直立 → 置く → 歩く」の順

Step4の抜き脚ドリルは、順序が決まっています。

  1. 直立した状態で抜き脚の動きだけを反復する
  2. ハードルを置いて、抜き脚が正確な高さに達するようにする
  3. 歩行やジョグで動きながら行う
  4. 自信をもってできるようになったらスピードを上げる

留意点は「抜き脚は小さくたたんで胸に引き付ける」こと、そして「前傾を強調し過ぎないようにする」ことです。後者は見落とされがちですが、上体を折りにいくと着地で腰が落ちます。前傾は結果として起きるもので、作りにいくものではありません。

この「ゆっくり・大きく」から「速く・正確に」へ進む設計は、指導現場でも共通しています。国際武道大学陸上競技部ヘッドコーチで日本陸連ハードル部長を務める櫻井健一氏のハードリングドリルの指導教材は、リード脚・抜き脚をそれぞれ「Walk(歩き)」→「Skip」→「1Step」→「4Step」と段階化し、最後にハードル間を7mに詰めた技術練習で走りにつなげる構成を取っています。まず歩きで正確な軌道を作り、あとからスピードを足す。この順序は、日本陸連の手引きが示すStep4の進め方とも一致します。

学校の授業レベルでは、千葉県教育委員会の資料が本数まで示しています。振り上げ脚・抜き脚のドリルは高さ44.0〜68.0cmを5台、間隔130〜150cm(5〜6足長)で各1〜2本。1歩ハードル・腿上げ3歩ハードルは高さ52.0〜83.8cmを5台で各3〜5本。慣れれば3〜5分で終わるため、ウォーミングアップ後のルーティンに組み込めます。

1歩ハードルと「短いインターバルの3歩ハードル」

空中でバランスが取れない、リズムがつかめないという段階には、スポーツ庁『小学校体育(運動領域)指導の手引』のハードル走が示す2つの場が有効です。

  • 1歩ハードル走:インターバル2.0〜2.5m程度。リズムは「ト・トーン」。越えるときに大きく跳び上がらないよう、ハードルの高さを低くして始める
  • 短いインターバルでの3歩ハードル走:インターバル4.0〜4.5m程度

いきなり正規の間隔で走るのではなく、この2つで「跳ばずに越える」動きを体に入れてから広げていきます。

小学校の授業でハードル走のコツをつかむには

小学生が取り組む80mHは、高さ0.70m・ハードル間7m・9台と、中学以降より一段やさしい設定です(全国小学生陸上競技交流大会の規格)。学校の授業ではさらに条件を下げてよく、スポーツ庁の指導の手引は40mに4台を基本とし、インターバル5.5m・6m・6.5m・7mのレーンを用意して自分に合うものを選ばせる方法を示しています。スタートから1台目までは10〜12mでどのレーンも同じ、ハードルの高さは一番低い設定から始めるのが原則です。

小学校段階では、インターバルは3歩に限定されません。同手引は到達点を「インターバルを3歩または5歩で走る」としています。無理に3歩に合わせて大股になるより、5歩でリズムを刻めるレーンを選ぶほうが結果的に速く走れます。後半でリズムが崩れる場合の台数の減らし方は、前掲の症状別の表に示したとおりです。

怖くて跳べない人のための段階練習

千葉県教育委員会の資料は、生徒がハードル走を楽しめなくなる要因を3つ挙げています。高さへの恐怖心/ハードルに脚をぶつけた時の痛み/3歩でインターバルを走れないこと。そして「こうした要因は生徒の動機づけを低くし、それ以降の学習の大きな妨げになる」と指摘しています。怖いのは性格の問題ではなく、設定の問題です。

用具は次のように代替できます。

  • 斜め半分に切った段ボール箱
  • カラーコーン/カラーコーンにバーをかけたもの/ペットボトル
  • バーをゴムにしたもの、スポンジ製カバーを付けたもの
  • プラスチック製ハードル、フレキシブルハードル(カバー付きバーが可動式)

進め方は「高さを下げる → ハードルの横だけを走る → リード脚か抜き脚の片方だけで越える → 両脚で越える」。日本陸連のStep3も、まさに「ハードルの横に沿って走り、どちらか一方の脚だけで越える」段階を置いています。ぶつけて痛い思いをする前に、当たっても痛くない用具で成功体験を積むのが近道です。

週の組み方の例

授業や部活で週2〜3回ハードルに触れられる場合の一例です。

頻度内容
週2回ウォーミングアップ後に抜き脚・リード脚ドリル3〜5分 → Step3〜5のいずれか → 3〜5台のハードル走
週1回スプリント中心(加速走・スピード持久)。ハードルは1歩ハードルなど軽めに
毎日股関節周辺のストレッチ(手引きも柔軟性の重要性を指摘)

ハードル間で加速するにはスプリント力そのものが必要です。走力の底上げについては、100mが速くなる方法とタイム帯別の練習メニューを並行して進めると、ハードルのタイムも動きやすくなります。

学年・種目別ハードル公式規格早見表

「うちの学校のハードルは何cm?」「中学と高校で何が変わるの?」に、1枚で答えられる表を用意しました。中学以上の距離と高さは日本陸連競技規則2026年版 第2部トラック競技(TR22 ハードル競走)、高校の高さは全国高等学校総合体育大会(インターハイ)陸上競技大会の実施要項に基づいています。小学生80mHは競技規則に距離の規定がないため、全国小学生陸上競技交流大会 千葉県選考会の競技注意事項に示された数値(高さ70cm・ハードル間7m・9台・スタートから第1ハードルまで13m・最終ハードルからフィニッシュまで11m)を掲載しています。

公式規格早見表

種目・区分高さスタート→第1Hインターバル最終H→フィニッシュ台数
小学生80mH(全国小学生交流大会)0.70m13.00m7.00m11.00m9台
中学男子110mH0.914m13.72m9.14m14.02m10台
中学女子100mH0.762m13.00m8.00m15.00m10台
高校男子110mH(インターハイ)1.067m13.72m9.14m14.02m10台
高校女子100mH(インターハイ)0.838m13.00m8.50m10.50m10台
高校男子400mH(インターハイ)0.914m45.00m35.00m40.00m10台
高校女子400mH(インターハイ)0.762m45.00m35.00m40.00m10台
男子110mH(U18)0.914m13.72m9.14m14.02m10台
男子110mH(U20)0.991m13.72m9.14m14.02m10台
男子110mH(一般)1.067m13.72m9.14m14.02m10台
女子100mH(U18)0.762m13.00m8.50m10.50m10台
女子100mH(U20・一般)0.838m13.00m8.50m10.50m10台
男子400mH(U18)0.838m45.00m35.00m40.00m10台
男子400mH(U20・一般)0.914m45.00m35.00m40.00m10台
女子400mH(U18・U20・一般)0.762m45.00m35.00m40.00m10台
男子300mH(国内基準・U20)0.914m45.00m35.00m10.00m8台
男子300mH(国内基準・U18)0.838m45.00m35.00m10.00m8台
女子300mH(国内基準・U18/U20)0.762m45.00m35.00m10.00m8台

ここで混同しやすいのが、U18・U20と「高校生」の関係です。日本陸連競技規則2026年版 第1部総則(TR3 年齢とカテゴリー)によると、U18は競技会の行われる年の12月31日現在で16歳・17歳、U20は18歳・19歳の競技者を指します。これはJAAF主催のU18・U20競技会の区分であって、高体連が主催するインターハイや都道府県高校大会の規格ではありません。

インターハイの実施要項では、男子110mHは1.067m、女子100mHは0.838mと明記されています。つまり高校生が高体連の大会で跳ぶ高さは、一般と同じです。

一方、同じ高校生でもJAAF主催のU18大会に出れば規格は変わります。男子110mHはU18で0.914m(中学と同じ高さ)、女子100mHはU18で0.762mと、いずれもインターハイより低い設定です。「高校生=1.067m/0.838m」と丸暗記するのではなく、どの主催者のどの大会かで確認してください。

つまり中学から高校に上がると、こう変わります。

中学高校(インターハイ)変化
男子110mH 高さ0.914m1.067m+15.3cm
男子110mH インターバル9.14m9.14m変化なし
女子100mH 高さ0.762m0.838m+7.6cm
女子100mH インターバル8.00m8.50m+50cm

男子は高さが一気に15cm以上上がり、女子は高さに加えてインターバルが50cm伸びます。高校に入ってリズムが合わなくなるのは技術が落ちたからではなく、条件が変わったからです。特に女子は、中学までと同じストライドでは3歩が届かなくなります。

ちなみにハードル本体は、上端の中央部に少なくとも3kg600の力を水平に加えないと倒れないよう設計され、各高さで3kg600〜4kgの力が作用すると転倒するように錘で平衡を調節することが規則で定められています。競技用ハードルは「絶対に倒れない硬い壁」ではありません。

ハードルを倒しても失格ではない|ルールと安全

失格になるのはどんなときか

これは誤解が非常に多いところです。日本陸連競技規則2026年版のTR22.7には、次のように書かれています。

TR22.6.2 および 22.6.3 の場合を除いて、ハードルを倒しても失格にしてはならない。また記録も認められる。

つまり原則として、ハードルを倒しても失格にはならず、記録も公認されます。では何をすると失格になるのか。まず前提として、スタートからフィニッシュまで自分のレーンのハードルを越え、そのレーンを走らなければなりません。そのうえでTR22.6が挙げるのは次の場合です。

  1. ハードルを越える瞬間に、足または脚がハードルをはみ出て、バーの高さより低い位置にあるとき(左右どちらの脚でも、リード脚・抜き脚の両方に適用)
  2. 手や体、振り上げ脚の前側で、いずれかのハードルを倒すか移動させたとき(「振り上げ脚の前側」は太ももの付け根からつま先まで、脚の前向きの全部分を含む)
  3. ハードルを倒して他の競技者に影響または妨害を与え、かつ他の規則にも違反する行為をしたとき
  4. 同様にハードルを移動させ、他の競技者に重大な影響または妨害を与え、かつ他の規則にも違反する行為をしたとき

押さえておきたい変更点があります。かつての規則にあった「故意にハードルを倒す」という条文は削除されており、現行規則では「何で倒したか(手・体・振り上げ脚の前側か)」「他の競技者に影響を与えたか」という、より客観的な基準に置き換えられています。ネット上には旧規則をもとにした「故意に倒すと失格」という解説が今も多く残っているので、注意してください。

また規則には、主に下位レベルの競技会に関連する注意として、ストライドのパターンを崩したり失ったりした競技者が、たとえば手をハードルに添えて「乗り越える」ことを認めている旨が付されています(この注意はすべての競技会に適用されます)。

条件つきとはいえ、「1台倒したから終わり」ではありません。倒れたハードルに気を取られて残りのレースを捨ててしまうほうが、よほど大きな損失です。

ハードルの向きと安全

ハードルは置く向きが規則で決まっている用具です。日本陸連競技規則TR22.1は「各ハードルは、競技者が走ってくる方向に基底部を向けて置く」と定めています。つまり土台(脚)が走ってくる自分の側、バーは奥側です。この向きだからこそ、脚が当たったときにハードルが進行方向へ倒れ、選手が引っかかりにくくなります。逆向きに置くと倒れにくくなり危険なので、練習前に全台の向きがそろっているか必ず確認してください。

なお、ハードルは脛やハムストリングを打ちやすい種目です。打撲や肉離れの痛みが数日たっても引かない場合は、自己判断で練習を続けず、医療機関や専門家に相談してください。

よくある質問

ハードル走のコツを1つだけ挙げるなら何ですか?

「跳ばずに走り越える」ことです。具体的には、日本陸連の手引きが示す踏み切り位置とハードル、ハードルと着地位置の距離が約2対1になるように、ハードルの遠くから踏み切って近くに着地します。真上に跳ぶと滞空時間が伸び、その間は加速できません。

ハードルが怖くて跳べません。どうすればいいですか?

高さと用具の設定を変えてください。恐怖心は「高さ」と「ぶつけた痛み」から生まれます。ゴム製のバーやスポンジカバー付きのハードル、倒したコーンや段ボールなど、当たっても痛くない用具に替え、ハードルの横だけを走る段階から始めます。高さを一番低い設定から上げていく手順は、本文の「小学校の授業でハードル走のコツをつかむには」で解説しています。

3歩で届きません。どうすればいいですか?

正規の間隔にこだわらず、練習用にインターバルを短くします。男子なら6.5〜8.5m、女子なら6.0〜8.0mの範囲で、間隔に合わせて高さも下げるのが原則です(本文の対応表を参照)。また、いきなり3歩ではなく5歩ハードルを経由すると、遠くから踏み切る感覚が身につきやすくなります。

ハードルを倒すと失格になりますか?

いいえ。日本陸連競技規則TR22.7により、原則としてハードルを倒しても失格にはならず、記録も認められます。ただし、手や体、振り上げ脚の前側で倒した場合や、倒したことで他の競技者に影響・妨害を与え、かつ他の規則にも違反した場合は失格になります。なお「故意に倒すと失格」という旧規定は現行規則では削除されています。

自分のハードル走が速いかどうか、どう判断すればいいですか?

タイムそのものより、フラットのスプリントとの差で見ると課題がはっきりします。千葉県教育委員会の授業資料は、50mハードル走(5台)のタイムから50m走のタイムを引いた「差」で評価する方法を示し、50m走のタイム別に50mハードル走の基準タイムを一覧化しています。抜粋すると次のとおりです。

50m走50mH走の基準タイム
5.5秒7.3秒1.8秒
6.0秒7.7秒1.7秒
6.5秒8.1秒1.6秒
7.0秒8.5秒1.5秒
7.5秒8.9秒1.4秒
8.0秒9.3秒1.3秒

注意したいのは、基準となる「差」は一律ではないことです。50m走が速い人ほど基準は厳しく(5.5秒なら1.8秒差)、遅い人ほど緩やか(8.0秒なら1.3秒差)に設定されています。自分の50m走のタイムに対応する行を見て、実際の差がそれより大きければハードリングでのロスが課題、すでに基準を満たしているのにタイムが伸びないなら課題はスプリント力側にある、という切り分けができます。同じ「タイムを上げたい」でも、やるべき練習は正反対になります。

中学から高校でハードルのリズムが合わなくなりました。なぜですか?

技術が落ちたのではなく、条件が変わったからです(詳細は本文の比較表を参照)。男子は高さが15cm以上上がり、女子は高さに加えてインターバルが50cm伸びます。まずは短いインターバルで3歩を再現し、そこから正規の間隔へ広げていく手順を踏んでください。

まとめ

ハードル走のコツを、もう一度整理します。

  • 跳ばずに走り越える。 上ではなく前へ、滞空時間はできるだけ短く。為末大氏の言葉を借りれば「ブレーキによる減速を小さくする」種目です
  • 踏み切りは遠く、着地は近く。 日本陸連が示す比率は約2対1
  • 抜き脚には基準がある。 太ももはほぼ水平、大腿と下腿は約90度以下、足首は背屈
  • 着地は落ちてくるのを待つ。 振り下ろしにいくと接地がズレる
  • 技術より先に歩数。 スタートは8歩、インターバルは3歩。届かないうちは5歩と短いインターバルで感覚を作る
  • 設定を変えるのは逃げではない。 高さと間隔を落として「できている感覚」を作るのが、日本陸連・スポーツ庁・県教委いずれの資料にも共通する順序です

ハードル走は、フォームの良し悪しよりも「歩数が合っているか」で結果が大きく変わる種目です。だからこそ、どのインターバルで、どの高さで、何台を、何本走ったのかという記録が、そのまま次の練習の判断材料になります。

練習ノートアプリ「TRACK HUB」なら、その日のインターバル設定やハードル高さ、本数、タッチダウンタイムまでを種目ごとに残せます。「先週は7.5mで3歩が合った」「今日は8.0mで4歩になった」という積み重ねが見えてくると、次にどこを変えればいいかが自分で判断できるようになります。設定を記録することから始めてみてください。