北口榛花選手は、女子やり投の日本記録68m92を持つ28歳です。2026年9月12日、ブダペストの第1回WAアルティメット選手権で自身の記録を1m54更新しました。2023年世界選手権と2024年パリ五輪の金メダリストですが、2025年の東京世界陸上はひじの故障を抱えて予選敗退。そこから1年での日本新です。9月27日には名古屋で初のアジア大会に臨みます。公式データだけを使い、5回の日本記録更新史と、その記録が何投目に出たのかまで整理しました。

この記事でわかること

  • 北口榛花選手のプロフィールと、日本記録68m92が世界のどこに位置するか
  • 64m36から68m92まで、5回の日本記録更新を日付・大会・試技順つきで
  • 日本選手権5度優勝、世界選手権金・五輪金までの戦績と年次ベストの推移
  • 日本陸連の公式データが裏づける「6投目の北口」と、2026年に変わったこと
  • アジア大会2026の女子やり投決勝が何月何日の何時で、相手が誰なのか

北口榛花選手のプロフィール|女子やり投の日本記録保持者

まず基本情報です。すべて日本陸連の選手プロフィール(2026年9月14日現在)と、所属事務所である株式会社スポーツビズの公式アスリートページで確認しています。

項目内容
氏名北口 榛花(きたぐち・はるか)
生年月日1998年3月16日(2026年9月現在28歳)
出身地北海道(スポーツビズの公式プロフィールでは北海道旭川市)
出身校旭川東高(北海道)→ 日本大学
所属JAL(日本航空)
主種目やり投
自己ベスト68.92(2026年9月・WAアルティメット選手権)=日本記録
コーチヤン・ゼレズニー(2026年〜)
主な代表歴オリンピック2回(2021年東京・2024年パリ)/世界選手権4回(2019年ドーハ・2022年オレゴン・2023年ブダペスト・2025年東京)/アジア大会(2026年名古屋)

読み仮名と出身地は、旭川市スポーツ協会内に事務局を置く北口榛花後援会の公式サイトでも「きたぐち はるか」「北海道旭川市」と確認できます。なお身長・体重は、日本陸連・所属事務所・後援会のいずれの公式ページにも公表がないため、この記事では触れません。

やりを初めて投げたのは、旭川東高1年だった2013年5月5日です。北海道道北地区記録会での34m13が、日本陸連の企画記事が記録する本人の初めての公認記録です。そこから13年で68m92。34m79を積み上げたことになります。

この記事で使う本人のX投稿(@giant_babyparu)は、日本陸連の選手プロフィールページにSNSリンクとして掲載されていることで本人のアカウントだと確認したものです。動画は日本陸連公式チャンネル(@jaaf)と、大会の放送権を持つTBS陸上ちゃんねる【公式】(@tbs5947)のものだけを使い、選手の写真は権利処理ができないため掲載していません。

日本記録の更新史|64m36から68m92まで5回

競技場の芝生に置かれた競技用のやりとメジャー

女子やり投の日本記録は、2019年以降ずっと北口選手が塗り替え続けています。日本陸連の企画記事と公式記録ページ、World Athleticsの公式リザルトで1件ずつ確認したものを並べます。

回記録更新日大会・会場何投目
164m362019年5月6日—6投目
266m002019年10月27日—5投目
367m042023年7月16日スコリモウスカ記念(シレジア)6投目
467m382023年9月8日ダイヤモンドリーグ ブリュッセル大会6投目
568m922026年9月12日第1回WAアルティメット選手権(ブダペスト)2投目(全4投)

1回目と2回目は日本陸連の第104回日本選手権の企画記事、3回目と4回目は東京2025世界陸上の企画記事、4回目の大会名は日本陸連の日本記録一覧、5回目はWorld Athleticsの公式リザルトが出典です。3回目の大会名は、同じ企画記事に載っている海外選手との対戦成績表に「2023.07.16/1)67.04/スコリモウスカ記念」「同/シレジア」とあるものによります。1回目と2回目は日本陸連の記事に大会名の記載がないため、この表では空欄にしています。

2019年に2回、2023年に2回

日本記録が動いた年は3つだけです。2019年、2023年、2026年。しかも2019年と2023年は、同じ年に2回ずつ更新しています。

2019年は大学4年のシーズンでした。5月6日の64m36が、日本陸連の表現でいう「北口にとって最初の日本新」です。この記録は、当時5月1日から有効になったばかりの東京五輪参加標準記録64m00も同時に突破しました。同じ年の日本選手権は63m68の大会新で初優勝。そして10月27日に66m00まで伸ばしています。4月6日の初戦57m87から数えると、1シーズンで8m13を積み上げた計算です。これは日本陸連が集計した2014年以降の「初戦→その年の最高記録」の伸びのなかで最大でした。

2023年は、7月16日に67m04、9月8日に67m38と2段階で更新しています。その間の8月25日(日本時間26日)に、ブダペスト世界選手権で66m73を投げて金メダルを獲得しました。日本陸連はこの跳躍の前段として、2023年の初戦・4月29日の織田記念64m50と、次戦・5月6日の木南記念64m43という64m台の連発を挙げ、それが金メダルと2回の日本新につながったと書いています。なお日本陸連が2019年に続く「2度目の大爆発」と呼んでいるのは、その前年の2022年です。自己ベストこそ2019年のままでしたが、2番目以下の記録が大きく上がって土台ができた年だった、という評価です。

68m92が世界のどこにあるのか

2026年9月12日の68m92は、それまでの67m38を1m54上回りました。World Athleticsの公式リポートは、この1本で北口選手が世界歴代リストの23位から10位タイへ一気に上がったと伝えています。

基準記録北口選手との関係
北口榛花選手の日本記録68m92世界歴代10位タイ・2026年の世界2位
更新前の自身の日本記録67m38(2023年)1m54更新
北口選手を除く日本歴代最高63m80(海老原有希選手・2015年)5m12上
アジア記録71m74(嚴子怡選手・中国・2026年)2m82届かない
2026年の世界最高71m74(同上)同上

日本歴代の2位が63m80であることは、World Athleticsの日本人オールタイム・トップリストで確認できます。日本の女子やり投で68m台どころか64m台を投げたことがあるのは、北口選手ただ1人です。この大会全体の結果は世界陸上アルティメット2026の結果まとめで扱っています。

日本記録一覧への反映は2026年9月22日時点でまだ

ここは正確に書いておきます。2026年9月22日現在、日本陸連のサイトのなかで表示が分かれています。

  • 日本記録一覧・女子(2026年9月14日現在/申請中の記録も含む)は、やり投を67.38・北口榛花・23/09/08・ダイヤモンドリーグブリュッセル大会と表示
  • 北口榛花選手のプロフィール(同じく2026年9月14日現在)は、自己ベスト欄を「やり投:68.92(2026.9 WAアルティメット選手権)日本記録」と表示

記録そのものはWorld Athleticsの公認リストに掲載されているので、公認性の問題ではなく一覧ページへの反映の問題とみられます。この記事では両方を併記しています。

自己ベストの推移と主要大会の戦績

年次ベストで見る13年

日本陸連の選手プロフィールに掲載された年次ベストと、日本陸連の企画記事にある高校・大学時代のデータを合わせたものです。

年学年など年間ベスト
2013高149m31
2014高253m15
2015高358m90
2016大161m38
2017大261m07
2018大360m48
2019大466m00
2020社163m45
2021社262m06
2022社365m68
2023社467m38
2024社565m80(※)
2025社664m63
2026社768m92

2013〜2016年は東京2025世界陸上の企画記事の表、2017年以降は選手プロフィールの年次ベスト欄によります。

※2024年は、同じ日本陸連のなかで表示が分かれています。プロフィールの年次ベスト欄は65m80(パリ五輪の優勝スロー)ですが、企画記事は9月14日のダイヤモンドリーグファイナルで優勝した66m13をその年の最高記録として挙げています。この記事の表はプロフィール欄の値を採っています。

この表で目を引くのは、2017年と2018年の2年間、記録が止まっていることです。大学1年の2016年に58m90から61m38へ2m48伸ばした直後、61m07→60m48とむしろ下がっています。日本陸連はこの2年を「自己ベストは停滞したが、その年の3〜5番目の記録が自己ベストをマークした16年よりもアップして、次のステップへのエネルギーを蓄えていた時期」と評価しています。ベスト1本は止まっていても、その下の3〜5本目は上がっていた、という見方です。そして2019年に66m00。停滞の2年のあとに5m以上の跳ね上がりが来ました。

日本選手権は5度優勝

日本陸連の選手プロフィールに掲載された主要大会成績から、日本選手権だけを抜き出します。

年順位
20176位
201812位
2019優勝(63m68・大会新)
20202位
2021優勝
2022優勝
20232位
2024優勝
2026優勝(62m86・アジア大会内定)

2025年は日本選手権の記載がありません。2018年の12位から翌年の優勝までが、記録でいえば60m48から66m00への跳躍にあたります。

2026年6月12日、パロマ瑞穂スタジアムでの第110回日本選手権は、2年ぶり5度目の優勝でした。決勝の上位8人は次のとおりです。

TRACK HUB RESULTS

第110回日本陸上競技選手権大会 女子やり投(600g) 決勝

2026-06-12 パロマ瑞穂スタジアム(名古屋市瑞穂公園陸上競技場・愛知)

女子やり投(600g) 決勝

順位選手所属記録備考
1北口 榛花JAL(東京)62m86AJS
2武本 紗栄オリコ(東京)61m74AJS
3上田 百寧ゼンリン(福岡)61m03AJS
4辻 萌々子九州共立大(愛知)60m27AJS
5山元 祐季高田工業所(福岡)58m70
6斉藤 真理菜スズキ(静岡)57m90
7田中 友梨スズキ(静岡)55m85
8篠田 佳奈京都大(岐阜)55m80

AJSは公式リザルトの凡例どおり、アジア大会派遣設定記録60m25を突破したことを示す記号です。北口選手の62m86は5投目に出たもので、この優勝でアジア大会代表に内定しました。この決勝は日本陸連の公式チャンネルで公開されています。

【第110回日本選手権】女子 やり投 決勝1位 ●北口 榛花●

世界の舞台での7大会

五輪2回・世界選手権4回・WAアルティメット選手権1回の結果です。順位は日本陸連の選手プロフィール、記録は各大会の公式リザルトと日本陸連の企画記事によります。

年大会結果
2019世界選手権(ドーハ)予選13位(60m84・決勝進出に6cm届かず)
2021東京五輪12位
2022世界選手権(オレゴン)3位・銅メダル(63m27)
2023世界選手権(ブダペスト)優勝・金メダル(66m73)
2024パリ五輪優勝・金メダル(65m80)
2025東京2025世界陸上予選A組8位(60m38)
2026第1回WAアルティメット選手権(ブダペスト)優勝(68m92・日本新)

2019年ドーハの60m84は、日本陸連の集計によれば「決勝に進めなかった選手のトップ」で、12番目の決勝進出者に6cm届きませんでした。

そして2025年の東京世界陸上は、地元開催のディフェンディングチャンピオンとしての出場でしたが、予選A組8位の60m38で敗退しています。予選のあと、日本陸連に寄せたコメントで本人はこう語りました。

春先からけがが続いたり、精神的にも苦しい部分がたくさんありましたが、そのたびに「今年は東京世界陸上があるからやっぱり練習に戻ろう」という気持ちになれたので、素敵なゴールを作ってくださったみなさんに本当に感謝したいです。

世界大会の借りは世界大会でしか返せないと思います。ここで決勝に残れなかったからといって「人生終わりだ」というふうには思わないので、ちょっと長い休みは必要かもしれないですが、強くなって戻ってきたいと思います。

その翌日の9月20日、本人はXにこう投稿しています。

北口榛花 harukaKitaguchi@giant_babyparu

ご声援ありがとうございました。 決勝には届きませんでしたが、怪我をしたあと1番思い切れたのは皆さんの声援があったからです! 1日経って、肘の悪化はなさそうです。 休む時間は必要になりますが、また強くなって帰ってきます! そして 今日の夜、女子やり投決勝があります!…

2025年9月20日Xで投稿を見る →

ここで言われた「また強くなって帰ってきます」が、ほぼ1年後の68m92につながります。

投げの特徴をデータで読む|6投目の北口とゼレズニーコーチ

ここからが、北口選手を語るうえでいちばん面白いところです。フォームの細部は公開されていないため、この記事では日本陸連が公式に検証したデータと、本人・コーチの発言だけを使います。

日本陸連が検証した「6投目の北口」

日本陸連の競技規則2026・第3部 フィールド競技は、長さを競うフィールド競技について「8名を超える競技者が出場している場合、全員が3回の試技終了後、上位記録の8名のみが4回目以降の試技を行うことができる」と定めています。つまりやり投は、最大6投のうち最も遠い1本が記録になる種目です。北口選手は、その1本が試技の後半に出ることで知られてきました。

日本陸連の企画記事は、国際陸上競技統計者協会(ATFS)会員の野口純正氏が書いたもので、この傾向を実際のデータで検証しています。記事が挙げている代表例です。

場面何投目内容
2015年 日本ジュニア(高3)6投目58m90=日本高校記録・U18日本記録
2017年 日本インカレ(大2)6投目逆転で初優勝
2022年 世界選手権オレゴン 決勝6投目5位から逆転して銅メダル(63m27)
2023年 世界選手権ブダペスト 決勝6投目4位から逆転して金メダル(66m73)
2023年 日本記録(7月16日・9月8日)6投目67m04・67m38
2024年 パリ五輪 決勝1投目65m80がウィニングスロー

2022年オレゴンでは、6投目に入る前の順位が5位。2023年ブダペストでは4位。世界大会のメダルを2つとも、最後の1投でひっくり返して取っています。

前の章で挙げた日本記録5回の表を、もう一度見てください。64m36が6投目、66m00が5投目、67m04が6投目、67m38が6投目。5回のうち4回が、5投目か6投目に出ています。

同じ企画記事は、2022年から2025年までの決勝46試合について、その日のベストが何投目に出たかを集計しています。ひとことで言えば、6投目が4割・1投目が2割です。

何投目にベストが出たか2022年(15試合)2023年(15試合)2024年(10試合)2025年(6試合)合計(46試合)
1投目5回2回1回1回9回(19.6%)
2投目0回4回2回1回7回(15.2%)
3投目4回2回1回1回8回(17.4%)
4投目1回0回0回0回1回(2.2%)
5投目0回2回0回2回4回(8.7%)
6投目5回5回6回1回17回(37.0%)

4年間の決勝で、ベストが6投目に出た割合は37.0%。とくに2024年は10試合中6回(60.0%)で、日本陸連の記事自身が「驚き」の数字だと書いています。6投目の次に多いのが1投目の19.6%で、最初か最後に振れるのがこの選手の形だとわかります。

68m92は2投目に出た

ところが2026年の68m92は、試技の順番がまったく違います。

第1回WAアルティメット選手権は1人4投で争う短い形式でした。World Athleticsの公式リザルトによる北口選手の内訳は、1投目61m15、2投目68m92、3投目と4投目が無効試技。残り2投を無効にしても順位は動きませんでした。

この日は、中国の嚴子怡選手が1投目に68m05を投げて先にリードしています。その直後の2投目で68m92。つまり、追いかける展開で、試合の序盤に一発で答えを出したということです。「最後の1本で逆転する選手」が、逆の勝ち方をしました。

World Athleticsの公式リポートで、本人は1投目のあとのやりとりをこう説明しています。

1投目で61mを投げたあと、コーチ(世界記録保持者のヤン・ゼレズニー)から「集中を切らすな、やりをまっすぐに保て、そうすれば遠くへ投げられる」と言われました。

(World Athleticsの公式リポートに掲載された英語の談話を編集部で訳したものです)

記録が出た直後に本人が挙げた指示が、技術論ではなく「集中」と「やりをまっすぐ保つ」の2点だけだったことは、覚えておく価値があります。やりをまっすぐ保つとは、やりの軸と、やりが飛んでいく方向をそろえるということです。ここがずれれば、同じ力で投げても距離は出ません。なお、コーチがこの指示を出した意図そのものは公表されていないため、ここでは本人が語った内容にとどめます。

【初代女王!】北口榛花が3年ぶりの日本新記録!68m92で優勝!【アルティメット世界陸上/女子やり投】

2026年に何が変わったのか

2026年5月1日、本人がXでコーチの交代を発表しました。

北口榛花 harukaKitaguchi@giant_babyparu

こんにちは。 南アフリカでのキャンプを経て正式にコーチングをお願いすることになりました。 新たなスタートをレジェンドであるヤンゼレズニーさんとできてとても嬉しいです。やり投のことはもちろんメンタリティも含めて吸収していきたいです。 受け入れてくれたチームメイトにも感謝しています。…

投稿にある「ヤンゼレズニーさん」は、男子やり投の世界記録98m48(1996年)を30年にわたって保持しているヤン・ゼレズニー(チェコ)のことです。日本陸連のアジア大会企画記事も、北口選手が2026年からゼレズニーコーチと契約し、フォームの修正に取り組んできたと伝えています。

ただし、切り替えた直後は苦しんでいます。5月17日のセイコーゴールデングランプリ(今季初戦)は60m36で5位。日本陸連に寄せたコメントで、本人は70mという目標とコーチとの共有に触れつつ、この結果には満足していないと述べました。その様子は放送局の公式チャンネルにも残っています。

【新コーチと新たな船出】北口榛花が今季初戦【ゴールデングランプリ陸上2026/女子やり投決勝】

そして6月12日の日本選手権で優勝した直後、本人が語った言葉が、この時期の状態をいちばんよく表しています。

62m86は、本当はそんなに喜べる記録ではない。しかし、(昨年の故障の)痛みは完全にない状態ながら、なかなか思うように投げられないという状態がずっと続いていたなかで、勝負がかかったこの試合で、(この記録を残せたことは)少し自分の殻を破れたような気がして、「もっと投げられるな」と思えたから、ホッとした。

今、新しいことをたくさんやっていて、すごい量のニューデータが頭に入っている状態(笑)。ここまで、いろいろ考えすぎて投げられない状態が多かったけれど、ようやく(そのフラストレーションが)少し発散された気がする。

同じコメントで、この試合はゼレズニーコーチから遠隔で指示をもらっていたこと、4投目以降は試技順の回転が速すぎて指示が間に合わなかったことも明かしています。そのうえで、復活したと言うには65m以上を投げなければならない、1試合に1回ではなく連発できる力をつけたい、と話しました。

2026年シーズンの記録推移

日本陸連の企画記事とWorld Athleticsの公式リザルトで確認できる、2026年の記録の上がり方です。

日付大会・場所記録
5月17日セイコーゴールデングランプリ(東京)60m36(5位)
6月12日第110回日本選手権(名古屋)62m86(優勝)
6月28日パリ63m01
8月21日ダイヤモンドリーグ ローザンヌ64m90(優勝)
9月5日ダイヤモンドリーグファイナル ブリュッセル65m44(2位・6投目)
9月12日第1回WAアルティメット選手権(ブダペスト)68m92(優勝・日本新)

日本陸連の表現を借りれば「26年5月は60mちょっと」だった選手が、4か月弱で68m92まで来ました。60m36→62m86→63m01→64m90→65m44と、1試合ごとにほぼ確実に上げています。本人が日本選手権後に掲げた「65m以上」は9月5日に達成し、その1週間後に68m92。目標の立て方と到達の仕方が、そのまま数字に残っているシーズンです。

なお9月5日の65m44も6投目でした。この年も「後半型」であること自体は変わっていません。変わったのは、68m92を2投目に出せたことです。

助走についてわかっていること

助走に関して公式に確認できる記述は多くありません。日本陸連の第104回日本選手権の企画記事が2020年の状況として、その冬はチェコを拠点にトレーニングを積み、よりスピードが出る助走に改良中だと伝えているのが、まとまった記述としてはほぼ唯一です。同じ記事は、新しい助走を定着させて3投目までに決められるかどうかが当時の注目点だとも書いています。

やり投の助走やクロスステップの基本は、TRACK HUB NEWSでは投てき種目のノウハウ記事で扱っています。たとえば砲丸投げの投げ方は種目こそ違いますが、下半身から上半身へ力を伝える順番という点では共通する部分があります。ここから先、北口選手のフォームの細部を語るのは推測になるため、この記事では書きません。

アジア大会2026 女子やり投|9月27日21時03分の一発勝負

夕暮れの陸上競技場の青いトラックと芝生のフィールド

北口選手にとって、アジア大会は初出場です。日本陸連の企画記事は、世界選手権と五輪には2019年から2025年まで6大会連続で出場しているのに、「アジア」という名がつく大会には今回が初めてだと指摘しています。

項目内容
大会第20回アジア競技大会(愛知・名古屋2026)
陸上競技2026年9月23日(水)〜29日(火)
会場名古屋市瑞穂公園陸上競技場(パロマ瑞穂スタジアム)
女子やり投9月27日(日)21時03分・決勝のみ(予選なし)
日本代表北口榛花(JAL)/武本紗栄(オリコ)
地上波TBS系列 18時30分〜23時24分 生中継(TVerでリアルタイム配信)
配信U-NEXT 7時30分〜

日程と放送は日本陸連のアジア大会特設サイトの競技日程・オンエア情報によります。大会全体の日程と他種目の見どころはアジア大会2026陸上の日程×日本代表ガイドにまとめました。

相手は18歳のアジア記録保持者

日本陸連の企画記事は、この種目の展望をはっきり書いています。要点は2つです。

ひとつは、中国の嚴子怡選手です。2008年5月22日生まれの18歳で、2026年5月23日に71m74をマークしました。これはアジア記録であり、世界歴代2位でもあります。それまでの自己ベストは2023年57m80、2024年64m41、2025年65m89。18歳の誕生日の翌日に、一気に5m85伸ばした計算になります。その後も67m11、67m44、68m75、68m42と投げ続けており、記録が偶然でないことを示しました。

もうひとつは、その嚴選手を北口選手がブダペストで破っているという事実です。World Athleticsのリポートによれば、嚴選手はブダペスト到着時点でダイヤモンドリーグ5試合無敗、ダイヤモンドトロフィーも北口選手を抑えて獲得していました。そのうえで1投目に68m05。北口選手の2投目68m92で逆転され、2投目63m95のあとに棄権して2位で終えています。

項目記録
アジア大会の大会記録66m09(劉詩颖選手・中国/2018年8月28日・ジャカルタ)
アジア記録71m74(嚴子怡選手・中国/2026年)
北口榛花選手の日本記録68m92(2026年9月12日)
武本紗栄選手の2026年ベスト61m74(6月12日・日本選手権2位)

大会記録66m09は、北口選手の今季の記録なら2m83上回る水準です。ただし日本陸連は、嚴選手がこの大会記録どころか、劉詩颖選手が2018年にマークした日本国内最高記録67m12を更新する可能性にも触れています。

日本の女子やり投は、アジア大会で金8個・銀8個・銅3個を獲得してきた種目です。直近の金は2010年の海老原有希選手。また日本勢の複数メダルは1974年の銀・銅が最後で、今回それが実現すれば52年ぶりになります。武本選手は2023年杭州大会6位からのリベンジです。

予選なしの一発勝負が意味すること

見逃せないのが形式です。日本陸連の競技日程に女子やり投の予選は載っておらず、9月27日21時03分の決勝だけが組まれています。

ここまで見てきたとおり、北口選手は記録が後半に出るタイプでした。日本記録5回のうち4回が5〜6投目、世界選手権のメダル2つはどちらも6投目の逆転です。予選で体力を削られない一発勝負は、最後まで投げ切れる体力を残しやすいという意味で悪くない条件といえます。

一方で、出場者が8人を超えれば、4投目以降に進めるのは上位8人だけです。3投目までに8位以内に入っていなければ、得意の6投目そのものが回ってきません。日本陸連の企画記事が繰り返し「3投目までに」の重要性を指摘してきたのは、この理由からです。同じ記事の集計によれば、2023年に北口選手が3投目までに63m以上を投げた割合は予選を含む16試合中10回(62.5%)で、2022年の31.3%から倍増しています。

同じアジア大会に臨む他の日本代表では、女子800mの久保凛選手の記録まとめも同じ形式で整理しました。2026年の注目選手を横断で見たい場合は陸上の注目選手2026もあわせてどうぞ。

中高生が北口榛花選手から持ち帰れる3つの視点

日本記録保持者の練習をそのまま真似ることはできません。ただ、公開されているデータからは、自分の競技にそのまま使える考え方が取り出せます。

1. 記録が出た「試技番号」を残す

北口選手の強さを裏づけているのは、日本陸連が何年も追い続けてきた「何投目にベストが出たか」のデータです。これは特別な機材がなくても記録できます。投てきでも跳躍でも、1本ごとの記録と試技番号を並べておくだけで、自分が前半型なのか後半型なのか、何本目から距離が出始めるのかが見えてきます。後半型だとわかれば、試合前のアップの量や、1投目の入り方を設計できます。

2. 初戦の記録でシーズンを決めつけない

日本陸連は、北口選手のシーズン初戦の記録とその年の最高記録の差を2014年から2024年まで集計しています。その11年間の平均は4m097。最小で7cm、最大で8m13でした。初戦がうまくいかなかった年でも、最終的には平均4m前後伸びています。2026年も初戦は60m36で、最終的に68m92でした。

3. ベスト1本ではなく、その年の上位5本を並べる

日本陸連が北口選手を追うときに使っているのは、年間ベストだけでなくその年の上位5本、60m以上を投げた回数と率、63m以上の回数と率、そして初戦から年間最高までの伸び幅です。ベスト1本では動きが見えない年でも、2本目から5本目や「一定ラインを超えた回数」は動きます。実際、さきほどの2017年・2018年の停滞はこの指標で説明がつきましたし、2024年は11試合すべてが60m以上(100%)でした。部活の記録でも、シーズンの自己ベストの下に2位から5位までの記録と、「◯m(◯秒)を超えた試合数」を書き足しておくだけで、同じ見方ができます。

よくある質問

北口榛花選手の自己ベストは何mですか?

68m92です。2026年9月12日、ハンガリー・ブダペストで行われた第1回WAアルティメット選手権の女子やり投決勝で記録しました。これが現在の日本記録でもあります。ただし2026年9月22日時点では、日本陸連の日本記録一覧のページは更新前の67m38(2023年9月8日・ダイヤモンドリーグ ブリュッセル大会)を表示しており、本人のプロフィールページだけが68.92を日本記録として表示しています。

女子やり投の日本記録は誰がいつ出したものですか?

北口榛花選手が2026年9月12日に出した68m92です。北口選手は2019年5月6日の64m36から数えて5回日本記録を更新しており、その5回すべてが本人によるものです。北口選手を除く日本歴代最高は、海老原有希選手が2015年に投げた63m80です。

北口榛花選手のコーチは誰ですか?

2026年からヤン・ゼレズニー(チェコ)がコーチを務めています。男子やり投の世界記録98m48(1996年)を30年にわたって保持している人物です。本人が2026年5月1日にXで発表し、日本陸連の企画記事も契約とフォームの修正に触れています。それ以前は2020年の冬にチェコを拠点としてトレーニングを積んでいたことが、日本陸連の記事に記載されています。

北口榛花選手はアジア大会に出たことがありますか?

2026年の愛知・名古屋大会が初出場です。世界選手権には2019年ドーハから2025年東京まで4大会、五輪は2021年東京と2024年パリの2大会に出場していますが、日本陸連によれば「アジア」という名がつく大会には今回が初めてになります。

アジア大会2026の女子やり投はいつ行われますか?

2026年9月27日(日)21時03分開始の決勝のみで、予選はありません。会場は名古屋市瑞穂公園陸上競技場(パロマ瑞穂スタジアム)です。日本からは北口榛花選手と武本紗栄選手が出場します。地上波はTBS系列が18時30分から23時24分まで生中継し、TVerでもリアルタイム配信されます。

まとめ

北口榛花選手について、公式ソースで確認できた事実を整理します。

  • 1998年3月16日生まれの28歳。北海道・旭川東高→日本大学→JAL。主種目はやり投
  • 女子やり投の日本記録68m92(2026年9月12日・第1回WAアルティメット選手権)。世界歴代10位タイで、2026年の世界リストでは2位
  • 日本記録は2019年の64m36から数えて5回更新しており、5回すべてが本人。北口選手を除く日本歴代最高は63m80
  • 日本選手権5度優勝、2022年世界選手権銅、2023年世界選手権金、2024年パリ五輪金。2025年の東京世界陸上は、本人がXでひじに触れているとおり故障を抱えて予選敗退
  • 日本記録5回のうち4回が5〜6投目に出ており、世界大会のメダル2つはどちらも6投目の逆転。ところが68m92は4投制の2投目に出た
  • 2026年はヤン・ゼレズニーコーチのもとでフォームを修正。初戦60m36から68m92まで、1試合ごとに記録を上げた
  • アジア大会2026の女子やり投決勝は9月27日21時03分。予選なしの一発勝負で、アジア記録71m74を持つ18歳・嚴子怡選手(中国)が最大の相手になる

やり投は、6本のうち「良かった1本」だけが記録になる種目です。北口選手のデータが教えてくれるのは、その1本が何投目に出るかには選手ごとの癖があり、それは記録し続けないと見えてこないということでした。陸上練習ノートアプリ「TRACK HUB」なら、試合の1投ごとの記録も、日々の練習も同じ場所に残せます。年次ベストの表のように自分の記録推移を並べるところから、来シーズンの設計を始めてみてください。