陸上ノートの書き方で迷ったら、まず日本陸連が公式に配布している「練習日誌」のひな形をまねてください。書くのは、日時・場所・天候・体調・今日の目標・練習内容・ふりかえりの7項目。そこに練習強度/疲労度/意欲/技術的調子/睡眠/食欲/体調/怪我の状態の8項目を5段階で丸をつけます。これだけで、練習ノートは「日記」から「自分を客観視する道具」に変わります。この記事では、公式書式の中身と、そこに何を書き足すか、そして「反省がいつも同じになる」という壁の抜け方までを具体的にまとめます。

この記事でわかること

  • 日本陸連の公式「練習日誌」書式に何が並んでいるか
  • 陸上ノートに書く7つのブロックと、そのまま写せるテンプレート
  • 「反省が毎回同じ」「日記みたいだと言われた」の直し方
  • 短距離・中長距離・跳躍・投てきでの書き分けと、試合当日の記録の型
  • 起床時心拍や体重の記録で、故障やオーバートレーニングの前兆を先に見つける方法

競技場のスタンドで練習ノートに書き込む陸上部員の手元

陸上ノートの書き方は、日本陸連の公式書式をまねるのが最短

「何を書けばいいかわからない」は、陸上ノートで最初にぶつかる壁です。ここで自己流に悩む必要はありません。日本陸上競技連盟が『中学校部活動における陸上競技指導の手引き』の巻末に、コピーして使える「練習日誌」のひな形(PDF)を公開しているからです。

公式の練習日誌に並ぶ「上段7つ・下段8つ」

ひな形の上段に並ぶのは、日時/場所/天候/体調/今日の目標/練習内容/ふりかえりの7項目。「ふりかえり」の右隣には、指導者が書く「先生のコメント」欄が置かれています。下段には5段階評価が並びます。

ブロック項目目盛りの意味
練習状況練習強度・疲労度・練習への意欲・技術的調子1(低い)〜5(高い)
調子睡眠・食欲・体調・怪我の状態1(悪い)〜5(良い)

手引き本体では、この図に「少なくとも上段の項目は書きましょう。加えて、コンディションの確認のために、下段の項目も書くとさらによいでしょう」という注釈が添えられています。上段が必須、下段が推奨という優先順位まで公式に示されているわけです。

「ふりかえり」の隣に「先生のコメント」がある意味

この書式で見落とされがちなのが、「ふりかえり」と「先生のコメント」が横並びに配置されていることです。第4章「練習計画の立て方」には、練習日誌は「指導者と選手との連絡帳としても活用できる」と書かれています。

つまり公式書式は、ノートを提出物ではなく対話の場として設計しています。「顧問に見せるのが気まずい」人は、書く内容が悪いのではなく、ノートの位置づけが共有できていないだけかもしれません。

指導者に見せるノートは「返信が返る形」で書く

公式書式に「先生のコメント」欄がある以上、提出用ノートは評価される場ではなく相談する場です。ただし、ただ提出するだけではコメントは返ってきません。返信が返るノートには、答えられる質問が書いてあります。

  • 「今日は調子が悪かったです」→ 返しようがない
  • 「4本目で設定より4秒落ちました。レストの給水を飛ばしたせいだと思うのですが、他に原因はありますか」→ 返せる

提出は週1回でも構いません。まとめて渡すときは、いちばん聞きたいことに印をつけて1つだけ質問すると答えやすくなります。返ってきたコメントは、翌日の「次の1手」欄に自分の言葉で書き写してください。書き写した時点で、他人の指示ではなく自分の課題になります。

なお、同じ第4章には、こう書かれています。「日々の練習日誌を書くことが負担になり過ぎないことも重要です」。

公式資料がわざわざ「負担になり過ぎるな」と釘を刺している点は重要です。項目を増やして3日で挫折するくらいなら、上段7項目と5段階の丸だけで1週間続けるほうが価値があります。

月間練習計画とセットで回す

同じ手引きの巻末には、「月間練習計画」のひな形も用意されています。こちらは月間目標/日付(曜日)/週間課題/内容/負荷(強度・量)/備考という構成です。手引き第4章の図5「トレーニング計画からの運用プロセス」は、練習計画の運用を「目標→計画→修正→実行→記録→評価」と一周する循環で示しています。

手引き自体はひな形どうしの対応づけまでは示していませんが、**月間練習計画を「計画」と「修正」、練習日誌を「記録」と「評価」**に当てはめて考えると使いやすくなります。

月初に計画を1枚書き、毎日ノートを埋め、月末に見比べる。この往復ができると、ノートは急に役に立ちはじめます。

陸上ノートに何を書くか|練習日誌の7ブロックとテンプレート

公式書式に慣れたら、競技者向けに中身を足していきます。公式書式の「7項目」が日付・場所・内容といった記入欄の枠だとすれば、ここで言う7ブロックはその枠に何を書き込むかの中身です。整理すると、次の7つに収まります。

  1. 練習の事実 — メニュー、本数、距離、レスト、タイム、風、路面
  2. 体の状態 — 体重、起床時心拍数、睡眠時間、食欲、排便の状況
  3. きつさの数値化 — 練習強度を1〜5、または0〜10で
  4. 痛み・違和感 — 部位と程度。何日続いているか
  5. 感覚の言語化 — 良かった感覚・悪かった感覚を自分の言葉で
  6. 次の1手 — 明日ひとつだけ変えること
  7. (女子選手)月経に関する記録 — 開始日・終了日・症状

2の項目立ては思いつきではありません。日本臨床スポーツ医学会誌に掲載されたオーバートレーニング症候群の解説(山本宏明、2023年)は、予防のためのセルフチェックとして「練習日誌にセルフチェック項目〔トレーニング前の疲労感,意欲,睡眠,食欲,排便状況,体重,起床時心拍数,月経(女性)〕などを記録し,客観的に観察する」ことを挙げています。練習日誌に何を書くべきかは、医学の側からも具体的に提示されているのです。

体の状態は「毎朝おなじ条件で」測る

体重も心拍数も、測る条件が日によって違えば比べられません。体重は起床後にトイレを済ませてから、同じ服装で。心拍は目が覚めて起き上がる前に。数字そのものより、平常値からのズレを見るための記録です。

睡眠時間も欠かさず書いてください。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、こども版の推奨事項として「小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間を参考に睡眠時間を確保する」と明記しています。部活と学校の両立で8時間は厳しいですが、何時間眠れているかを知らなければ、削るものの判断もできません。

机の上に広げた練習ノートとストップウォッチ

きつさは数字にすると比べられる

「今日はきつかった」だけでは、先週と比べられません。そこで使うのが**主観的運動強度(RPE)**です。日本スポーツ協会の公認アスレティックトレーナー専門科目テキストは、Borg Scale(6〜20)の日本語版として、13=ややきつい、15=きつい、17=かなりきつい、19=非常にきつい、という対応を示し、「13がATレベルと考えられる」と説明しています。ATは無酸素性作業閾値のことで、ざっくり言えば「これ以上きつくすると急に苦しくなる境目」です。

競技現場でより一般的なのは0〜10で答えるCR-10です。この数字にその日の本練習の時間(分)を掛けた値を「セッションRPE」と呼び、1週間分を足せば練習量の推移が1本の線になります。

実際、大学男子長距離選手19名を16週間追跡した研究(中澤翔ほか、体育学研究68巻、2023年)では、選手が毎日スマホでセッションRPE・走行距離・体調・睡眠時間を入力しています。この研究では、前年の記録がある選手を対象にした分析で、**16週間の睡眠時間と競技記録の対前年比に有意な正の相関(r=0.500、p<0.05)**が認められました。睡眠時間は、書く価値のある項目だということです。

同じ研究では、16週間の各強度帯の走行時間の割合も報告されています。低強度(RPE 0〜2)が38.7%、中強度(RPE 3〜5)が47.9%、高強度(RPE 6〜10)が13.4%でした。対象は5000mの平均記録が14分55秒50の大学男子長距離選手19名です。走った時間で見ると、きつい練習は全体の1割台にとどまります。月末に「RPEがいくつの練習を、何分やったか」を集計すると、自分の練習が高強度に偏っていないかを確かめられます。

そのまま写せるテンプレート

紙のノートなら、見開き左に事実、右に振り返り。1日5分で埋まる分量にします。

── 2026/9/1(火)晴 +1.2m/s 城北陸上競技場 ──
体重 58.2kg / 起床時心拍 52 / 睡眠 7.5h
今日の目標:後半の上体を起こしすぎない

練習:W-up → 加速走(30+30m)×4 → 150m×3(r=8分)
     19"8 / 20"1 / 20"4 → 補強20分
RPE 7 × 本練習75分 = 525
強度4 疲労3 意欲4 技術3 / 睡眠4 食欲5 体調4 怪我4

痛み:右ハム 軽い張り(2日目・程度2/5)

感覚:1本目は10m地点で腰が乗った。3本目は最後の30mで
     顎が上がって、接地が前になった。
次の1手:明日は3本目に入る前に、意識を「顎を引く」だけに絞る

書く時間は「就寝前・5分」に固定する

いつ書くかを決めていない人は、まず書けません。おすすめは就寝前の5分。思い出しながら書くこと自体が、感覚の整理になります。書き忘れた日は空欄のままで構いません。空欄そのものが「その週は余裕がなかった」という記録になります。

「反省がいつも同じ」「日記になる」から抜け出す3つの直し方

よく聞く挫折が、「反省点が毎回同じになる」「先生に日記みたいだと言われた」というものです。これは、書く量ではなく書く順番の問題です。

直し方1:反省を〈事実→仮説→次の1手〉に割る

「後半きつかった。次はもっと頑張る」は反省ではなく感想です。これを3行に割ります。

行書くこと例
事実何が起きたか(数字で)幅跳びの助走、6本中4本が踏切板の15cm手前
仮説なぜそうなったか中間走で伸びず、最後の3歩で詰めにいっている
次の1手明日ひとつだけ変えること助走マークを15cm下げて、6本すべて同じ位置から

次の1手は必ず1つだけにします。3つ書くと、どれも実行されません。翌日のノートは、その1手が実行できたかの確認から始めます。この往復ができると、反省は自動的に前日と変わります。

あわせて、ノートの最初のページに目標を書いておくと、次の1手が迷子になりません。今シーズンの記録目標/今月の課題/今週の課題の3段階で書くのがおすすめです。日々の「次の1手」は、今週の課題からぶら下がっているはずのものだからです。ぶら下がっていないと気づいたら、それは課題の設定がずれているサインです。

直し方2:当たり障りのない言葉を禁止する

陸上の指導者向けチャンネル「Sprint & Conditioning」が2021年に公開した「本気でパフォーマンスUPを目指す【練習日誌】でのポイント」という動画は、概要欄の冒頭で「練習日誌、適当に書いてませんか?当たり障りのないような表現でごまかして、振り返った気分になってませんか?」と切り出しています。運営者は概要欄に「博士(教育学)、JAAFジュニアコーチ」と記載している指導者です。

「振り返った気分」がいちばんの敵、という指摘はそのとおりです。「まあまあだった」「もう少し頑張りたい」といった言葉は、書いた瞬間は振り返った気分になりますが、1か月後に読み返しても何も思い出せません。曖昧な形容詞を使いたくなったら、代わりに数字か身体部位を書くと決めてしまいましょう。「調子が悪い」ではなく「起床時心拍が普段より6拍高い」、「動きが硬い」ではなく「左の股関節が伸び切らない」と書きます。

直し方3:提出用と自分用を分ける

1000mから5000mまで複数種目の日本記録を持つ田中希実選手は、スポーツくじの公式サイト「GROWING」(日本スポーツ振興センター)のインタビューで、高校時代は陸上部員の練習日誌として練習メニューやデータ、食べた物を記録して提出していたと語っています。そして大学進学以降は「練習日誌と日記を書き分け、今も続けている」とされ、本人はこう説明しています。

「高校時代の練習日誌は課題と目標を書くやり方。先生など誰かが読むことを想定していました。今は練習内容を書き留めるだけ。日記は本当に自分と向き合ったものですね」

見せたくない感情まで1冊に押し込もうとするから、手が止まります。提出するノートは事実と課題、自分用のノートは感情、と分けてしまえば両方が続きます。

短距離・長距離の書き分けと、試合当日のレース記録

種目別に足す項目と記入例

同じ「練習ノート」でも、種目によって残すべき数字は違います。事実ブロックに何を足すかを整理しました。

種目事実ブロックに必ず足す項目
短距離・ハードル区間タイム、風向風速、スタブロの足位置、ハードル間の歩数
中長距離設定ペース、レスト、周回ごとのラップ、コース(トラック/ロード)
跳躍助走の歩数と距離、踏切位置のズレ(cm)、マークの位置
投てき投てき本数、器具の重さ、有効試技数、リリース角度の感覚
リレーマークの足長、渡し手・受け手、バトンの受け渡し位置

短距離なら、事実ブロックに区間タイムと風、スタブロの足位置を足します。

【短距離】SD(30m)×4 / 150m×3(r=8分)
      19"8 / 20"1 / 20"4(+1.2 / +0.4 / −0.3m/s)
      スタブロ 前3・後5(前回から前を1つ後ろへ)
      30m通過 4"05 → 前回比 −0.03

中長距離なら、同じ7ブロックのまま事実の書き方だけを変えます。

── 2026/9/3(木)曇 22℃ 学校グラウンド ──
体重 52.4kg / 起床時心拍 46 / 睡眠 8.0h
今日の目標:4本目までは設定を絶対に守る

練習:1000m×5(設定3'20 / r=200mジョグ)
     3'19 / 3'20 / 3'21 / 3'25 / 3'22
RPE 8 × 本練習62分 = 496

痛み:なし

感覚:4本目の600m地点で呼吸が上がった。3本目のレストで
     給水を飛ばしたのが効いた気がする。
次の1手:各レストで必ず一口飲んでから並ぶ

跳躍と投てきは、事実ブロックをこう書きます。

【跳躍】助走18歩(マーク6歩目・38m20)/踏切 −15/−12/+3/−15/−8/−14cm
     記録 5m42(4本目・+0.9)/風で助走が詰まった本数 2
【投てき】砲丸4.000kg/立ち投げ8本+グライド12本(有効10)
      記録 11m85(7投目)/リリースが低く感じた投擲 3本

短距離であれば、100mが速くなる方法で解説した区間タイムの測定結果をノートに残しておくと、どの局面で損をしているかが月単位で見えてきます。中距離なら設定タイムを、リレーならマークの足長を書き残しておくと、翌シーズンに一からやり直さずに済みます。

跳躍と投てきは、記録が出た日より出なかった日の記述が効きます。踏切位置が何cm手前だったか、助走の何歩目で詰まったかを数字で残しておくと、次に同じズレが出たときに一発で気づけます。助走の合わせ方そのものは走り幅跳びの助走の合わせ方で詳しく解説しています。

試合の日に書くこと

練習ノートは持っているのに、試合の記録は残していない——という人はとても多いはずです。試合こそ、次に生きる情報の宝庫です。

  • 起床時刻/朝食の内容と時刻/会場到着時刻
  • 招集完了時刻と、そこからスタートまでの待ち時間
  • アップの開始時刻と内容(何分前に何をしたか)
  • 天候・気温・風向風速・路面
  • 記録、順位、ラウンド、(あれば)ラップや区間
  • レース展開を3行で
  • 次の試合で変えること
── 2026/9/6(日) 県新人 女子800m 予選 ──
起床 5:40 / 朝食 6:10(おにぎり2・バナナ)/ 会場着 8:20
招集完了 9:35 → スタート 10:05(待ち30分:ジョグ5分+流し2本)
曇 24℃ 追い風 0.8m/s

記録 2'18"44(予選3組4着・全体7位で準決勝へ)
展開:400m 68秒で3番手。600mで外から抜かれて反応できず、
   残り100mは並ばれたまま。
次の1手:600m地点で一度だけ肩の力を抜く合図を決めておく

とくに**「招集からスタートまでの待ち時間に何をしたか」**は、次の大会で再現できるかどうかを決める情報なのに、記憶からいちばん早く消えます。使ったスパイクとピンの長さも一緒に残しておくと、買い替えの判断も早くなります。

故障とオーバートレーニングは、ノートが先に教えてくれる

陸上ノートの価値がいちばんはっきり出るのが、体の異変を早期に拾う場面です。

起床時心拍は、疲れると1分間に5拍ほど増えることがある

日本陸連の手引き第5章「スポーツ傷害の予防とコンディショニング」には、こう書かれています。

「一般的に起床時の心拍数は心身の疲労状態を反映するといわれています。個人差はありますが、心身の疲労状態が強い場合、1分間に5拍ほど日頃より増加します」

平常時の値を知らなければ「5拍高い」も判断できません。起き上がる前に15秒間の脈を数えて4倍するだけです。2週間続ければ自分の平常値が見え、そこから明らかに外れた朝がわかります。

オーバートレーニングは陸上競技と無縁の話ではありません。前出の日本臨床スポーツ医学会誌の解説によれば、日本陸連医事委員会の調査で、駅伝の全国大会出場選手の多くがオーバートレーニング症候群の経験があると答えており、その割合は**中学60%、高校30%、大学64%**と紹介されています。同解説は予防の3点として、回復(食事と睡眠)の意識づけ、セルフチェック、そして「当日のコンディションに応じて質や量を調整する」柔軟な運用を挙げています。

同解説が挙げるオーバートレーニング症候群の症状は、4つの系統に分かれています。ノートを読み返すときのチェックリストとして使えます。

系統主な症状
疲労症状競技パフォーマンスの低下、疲れやすさ・倦怠感・筋力低下、すぐに息があがる、筋・腱・関節の痛み、食欲低下、体重減少
精神・心理症状気持ちの落ち込み、注意力の低下、やる気がなくなる、興味や喜びの喪失、不安・あせり、情緒不安定
自律神経機能異常めまい・たちくらみ、動悸、吐き気、便秘や下痢、頭痛、睡眠障害、起床時心拍数の変化
免疫機能低下風邪をひきやすくなる、口内炎、口唇ヘルペスなど

「タイムが落ちた」だけを単体で見ると練習不足に見えますが、**そこに食欲低下や寝つきの悪さ、口内炎が並んでいたら意味が変わります。**症状を横断して見られるのは、毎日書いているノートだけです。

ただし同解説は、オーバートレーニング症候群がほかの病気を医学的に除外したうえで診断されるものだと明記しています。この表で自己診断はできません。当てはまる状態が数週間以上続くときは、ノートを持って指導者に伝え、医療機関に相談してください。

「週10%まで」のような魔法の数字はない

練習量の増やし方について、「週の走行距離は10%までしか増やすな」という目安を聞いたことがあるかもしれません。ただし、この10%ルールを組み込んだ13週間のプログラムを検証したランダム化比較試験(Buist ら、2008年)では、傷害の発生率は標準プログラムと変わりませんでした。近年広まった「急性:慢性ワークロード比」についても、Impellizzeri ら(2020年)が統計的な問題を指摘し、傷害予防の推奨に使う根拠はないと結論づけています。

なお Buist らの研究は初心者ランナーを対象にしたもので、中高生のトラック選手にそのまま当てはめられるわけではありません。それでも、「この数字を守れば故障しない」と言い切れる目安は今のところ存在しない、とは言えます。

数字で線を引く代わりに、自分のノートの中の変化を見てください。起床時心拍、睡眠時間、体重、そしてRPEの推移が同時に悪い方向へ動いた週は、量を落とす週です。

痛みは「部位」「程度」「連続日数」で拾う

痛みは、部位・程度(5段階)・連続日数の3点セットで書きます。筋肉痛と痛みでペンの色を変えると区別がつきます。同じ部位の痛みが3日以上続いたら指導者に伝えるとルールを決めておけば、我慢の判断を自分ひとりで抱えずに済みます。すねの内側の痛みが続く場合は、シンスプリントの治し方で症状の見分け方をまとめています。痛みや不調が続くときは、記録を持って早めに医療機関を受診してください。

女子選手は月経周期も同じノートに

スポーツ庁の委託調査(令和4年度「女子成長期の運動部活動に関する実態調査」、中学・高校の運動部所属女子生徒28,579人)では、月経周期を**「記録していない」が48.8%**(中学校計54.0%、高校計43.3%)にのぼりました。毎回記録している生徒は27.6%です。

日本陸連の手引き第5章も、女子選手について「基礎体温は通常の体温計ではなく、婦人体温計を用いて起床直後に計測します」「長期的に記録することで月経周期を把握することができ、また月経が不順になり医療機関を受診する際には、この基礎体温の変化が診断に重要な要素となります」と説明しています。月経開始日と終了日、症状、薬を飲んだタイミングを練習ノートの端に書き足すだけでも、体調の波と練習の質を結びつけて考えられるようになります。困ったことがあれば、ひとりで抱えず婦人科に相談してください。

青空の下のトラックに集まる中高生の陸上部員たち

週1回の振り返りと、続ける仕組み

ノートの価値は、週に一度の読み返しで生まれます。

週末の4つの問い

日曜の夜、5分で1週間分を読み返し、次の4つに答えます。

  1. 今週いちばん良かった1本はどれで、そのとき何を意識していたか
  2. RPEの合計は先週より増えたか、減ったか
  3. 3日以上続いている痛みや不調はあるか
  4. 来週ひとつだけ変えることは何か

答えは週の最後のページに書き足します。月末には4行たまり、シーズン末の振り返りの材料になります。手引きの図5が示す循環のうち、「記録」を「評価」に変える部分です。期分けの考え方は陸上の冬季練習メニューでも解説しています。補強やケアを含めた体づくり全体の組み立ては補強・ケアガイドにまとめました。

4つ目の問いだけは、必ず書いてから寝てください。月曜の練習が「先週の続き」になるか「ただの月曜」になるかは、この1行で決まります。

続かない人のための3つの逃げ道

  • 書けない日は空欄でいい。 埋めないことを理由にやめるほうが損です
  • 週まとめを許可する。 平日書けなければ土曜に1週間分を3行で
  • 項目を減らす。 続かないのは意志ではなく、項目が多すぎるだけです

紙とアプリ、どちらがいいか

編集部の見立てです。陸上練習ノートアプリを運営する立場から見ると、続く人と途切れる人の差は「何を書くか」より「毎日必ず埋まる欄が1つあるか」にあります。タイムや起床時心拍のような数字は、書き忘れても翌日に埋められます。一方、感覚は当日しか書けません。だから私たちは、数字はアプリや表に任せ、ノートには感覚と次の1手だけを毎日書く、という順番をすすめています。書く量を減らすほど、続きます。

結論は使い分けです。タイムや体重、RPEといった数字はアプリが集計と比較に強く、感覚の言語化や図・矢印を書き込む作業は紙に分があります。前出の研究でも、選手はスマートフォンで数値を毎日入力していました。数字はアプリ、言葉はノートと役割を決めるのが現実的です。二度手間になるのは同じことを二度書くから。紙には、アプリで見た数字のうち「気になった1つ」だけを転記し、その理由を書けば足ります。

陸上練習ノートアプリ「TRACK HUB」は、この数字側を引き受けるために作られています。練習と記録、体調を入力しておけば推移がグラフで見えるので、ノートには感覚と次の1手を書くことに集中できます。

トップ選手はどう書いてきたか

東京大学大学院に在籍しながらMABP Maverickで走る秋吉拓真選手は、大学1年時の練習日誌を実物付きでnoteに公開しています。

その記事で明かされているのは、東京大学陸上部の長距離ブロックが「スプレッドシートに練習日誌を書いてみんなで共有」していたという運用です。記事には当時の日誌の画像が添えられ、日付ごとの練習内容とレース後の率直な所感がそのまま残されています。個人で抱えず、書いたものをチームの共有物にしてしまう。これも続ける仕組みです。

アテネ五輪女子マラソン金メダリストの野口みずき選手は、ベースボール・マガジン社の公式記事によれば、中学で陸上を始めたときから引退まで練習ノートをつけ続け、その数は50冊以上にのぼります。メニューだけでなく食事や体の状態、走りに向き合う気持ちまで記録されており、本人は「ノートを書き終わらないと、1日が終わらないような気がするんです」と語っています。50冊は才能ではなく習慣の結果です。

よくある質問

Q1. 数か月書かずに空いてしまいました。もう再開できませんか

空いた期間を埋めようとしないでください。空白のまま、今日の日付から書き始めます。どうしても気になるなら、その日のページの端に「◯月〜◯月は書けず。テスト期間と大会が続いた」と1行だけ残しておけば、記録としては十分に機能します。

Q2. 練習がオフの日も書いたほうがいいですか

書いたほうがよいですが、内容は変えます。オフの日は練習内容の代わりに、体重・起床時心拍・睡眠時間・痛みの有無・食事の4〜5行で十分。回復した日のデータがあるから、疲れている日の数字が異常だとわかります。

Q3. どんなノートを使えばいいですか

罫線なしの無地か方眼が扱いやすく、助走のマーク位置やフォームの矢印を描き込めます。文章が苦手なら絵や図で残しても構いません。プリントやリザルトを貼るならA5より大きいサイズが便利です。

Q4. 部で1冊のノートを回すことになりました。何を書けばいいですか

共有ノートと個人ノートは役割を分けます。共有ノートに書くのは、その日の全体メニュー、天候や路面、器具の使用状況、連絡事項など全員に関係する事実です。個人の感覚や反省は自分のノートへ。共有ノートに感想を書き始めると、書く人によって分量も内容もばらつき、あとから読み返せなくなります。

Q5. ノートは何年分とっておくべきですか

競技を続けるかぎり全部とっておく価値があります。同じ時期の去年のページを開けば、何をしていて、どこが痛かったかが一目でわかるからです。かさばるなら、シーズン末に「効いたこと」「効かなかったこと」「来季の課題」を1ページにまとめ、それだけを新しいノートの最初に書き写す方法もあります。

まとめ

陸上ノートの書き方に、独自の正解を探す必要はありません。日本陸連が公開している練習日誌のひな形が出発点で、そこに7ブロック(事実、体の状態、きつさの数値、痛み、感覚、次の1手、女子選手は月経の記録)を足していけば十分です。

反省が毎回同じになるなら、〈事実→仮説→次の1手〉に割る。週に一度読み返して4つの問いに答える。この3つで、ノートは「書かされるもの」から「自分の取扱説明書」に変わります。書けない日があっても構いません。数字の記録と推移の管理は、陸上練習ノートアプリ「TRACK HUB」に任せてしまうのが手軽です。タイムやコンディションの変化がグラフで見えるので、手書きのノートには言葉と気づきだけを残せます。今日の練習から、まず1ページ書いてみてください。