走り高跳びの練習メニューを組むとき、最初に決めるべきなのはドリルの種類ではありません。「1回の練習で何本跳ぶか」という量です。静岡陸上競技協会の指導者養成講習会資料は、跳躍系トレーニングの総跳躍回数を初心者80〜100回、上級者でも120〜140回とし、実施は週1〜3回と示しています。この記事では日本陸連の練習計画・県陸協の講習会資料・査読論文をもとに、レベル別と時期別の週間メニューを、ドリルの本数まで含めて組み立てます。
この記事でわかること
- 1回の練習で跳んでよい総跳躍回数の上限と、強度別の換算のしかた
- 初心者・中学生・高校生それぞれの1週間の練習メニュー(曜日別)
- 冬季とシーズン中で「変えるもの」と「変えないもの」
- 助走・踏切・バー上の動きのドリルを、初級者がやるべき順と本数つきで
- 成長段階で避けるべき練習5つと、その代わりにやること
走り高跳びの練習メニューは「週に何本跳ぶか」から決まる

走り高跳びで伸び悩む中高生の多くは、ドリルの知識が足りないのではなく、量の設計がないまま跳んでいます。まず上限を決めてから、その枠の中に何を入れるかを考えます。
1回の練習の総跳躍回数には目安がある
静岡陸上競技協会 指導者養成講習会資料「中学生から始めるバネを作るための身体の使い方とトレーニング」は、NSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)が提唱するガイドラインとして、次の数値を挙げています。
跳躍系のトレーニングは週に1回〜3回、総跳躍回数は初心者で80〜100回、中級者で100〜120回、上級者で120〜140回としている。
同じ資料は負荷の換算方法も示しています。強度によって1回のカウントが変わる、という考え方です。
| 強度 | 資料での定義 | 換算 |
|---|---|---|
| 低強度 | ジャンプ後に体が静止する | 回数×1 |
| 中強度 | 連続してジャンプを行う | 回数×1 |
| 高強度 | 高い位置から飛び降りたり、自重以上の負荷をかけたもの | 回数×1.5 |
この資料は「バネ」の説明で走高跳を名指しし、踏切脚を突っ張って反発を受けるバネを「反射のバネ」、垂直跳びのように膝を曲げて伸展力で跳ぶバネを「筋力のバネ」と定義しています。走り高跳びで増やすべきは前者、短い接地の跳躍です。
強度区分へのドリルの当てはめは資料にないため、以下は編集部が定義に沿って整理したものです。初心者の上限100回で組むと、次のように収まります。
| 練習内容 | 実回数 | 強度 | 換算回数 |
|---|---|---|---|
| W-upのスキップ・ミニハードル | 30回 | 低 | 30 |
| 3歩ドリル | 15本 | 中 | 15 |
| サークル走からの短助走跳躍 | 15本 | 中 | 15 |
| 全助走跳躍 | 10本 | 中 | 10 |
| ハードルジャンプ(3台×5本) | 15回 | 中 | 15 |
| 台からの跳び下り(台30cm) | 10回 | 高 | 15 |
| 合計 | 95回 | — | 100 |
実回数で95回、換算で100回です。跳躍練習だけで50本跳ぶ日は、この枠をW-upの前に使い切っている計算になります。
全助走の跳躍は週2〜3回で足りる
約40年にわたって中学・高校生を指導した北谷静雄氏の資料(高松市陸上競技協会掲載)は、全助走跳躍の練習頻度を11月〜4月は週3回、5月〜10月は週2回とし、シーズン中は跳ぶ前の2日間の練習量を少なくして「バネ溜め」をするとしています。日本陸連『中学校部活動における陸上競技指導の手引き』の跳躍の練習計画も同じ方向で、試合期の週間計画で跳躍が入るのは火曜と土曜の2日だけ、本数は「中・全助走跳躍(4〜6本)」と「跳躍練習(3〜5本)」。1週間の全助走跳躍は10本前後にとどまります。
月刊陸上競技の連載で自身の冬季練習を書いた醍醐直幸氏(東京高校顧問)も、「あまり練習時間を長く行うことや、本数を多くした練習はしません」と述べ、理由を「試合はやり直しがきかない一発勝負だから」と説明しています。日本記録保持者の戸邉直人選手が月刊陸上競技の公式チャンネルで解説したジャンプトレーニングでも、概要欄に挙げられているアドバイスは「接地時間を短く」「量より質」「簡単なものから」から始まります。
練習時間の上限は「年齢×1時間」
量の話は跳躍本数だけではありません。スポーツ庁「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」は、学期中は週あたり2日以上の休養日を設け、1日の活動時間は平日2時間程度・休業日3時間程度とすることを基準としています。その根拠として検討会議に提出されたのが、日本体育協会「スポーツ医・科学の観点からのジュニア期におけるスポーツ活動時間について」という文献研究です。3つの調査が並んでいます。
- 年齢×1時間:週のスポーツ活動時間が「年齢×1時間」より多い場合、スポーツ外傷・障害、特に重いスポーツ障害が発生する可能性が高かった(Jayanthi ほか2015/7〜18歳の1,190人)
- 週16時間:16時間/週以上の活動をしている女子は、それ未満の女子に比べて疲労骨折の罹患率が約2倍だった(Loud ほか2005/11〜17歳の5,461人)
- 週6日:疲労骨折で来院したアスリートのうち71.3%が週6日以上スポーツ活動を行っていた(Ohta-Fukushima ほか2002/20歳未満の208人)
中学1年生(13歳)なら週13時間、高校2年生(17歳)なら週17時間。平日2時間×4日+土曜3時間で週11時間ですから、ガイドラインどおりなら自然に収まります。
レベル別の週間練習メニュー|初心者・中学生・高校生
3つともシーズン中(4〜10月)を想定し、木曜と日曜を休養日にしています。日本陸連の練習計画が全期共通で木・日をRestとしていることと、スポーツ庁ガイドラインに合わせたものです。
まず自分の現在地を知る
表彰台ではなく、入賞ラインと全国100位ラインという現実的な2つの目盛りで見ます。
| 区分 | 2026年 全国大会 入賞(8位)ライン | 全国ランキング掲載ライン(100人目) |
|---|---|---|
| 中学男子 | 1m89(第53回全中) | 1m75 |
| 中学女子 | 1m57(第53回全中) | 1m48 |
| 高校男子 | 2m04(インターハイ) | 1m92 |
| 高校女子 | 1m67(インターハイ) | 1m58 |
出典は第53回全日本中学校陸上競技選手権大会と第79回全国高等学校陸上競技対校選手権大会の公式リザルト、および日本陸連の第72回全日本中学校通信陸上競技大会(男子/女子)と2026 全国高等学校リモート陸上競技大会(男子/女子)のランキング掲載最下位(100人目)の記録です。同記録のタイが多いため、順位そのものは81〜100位に幅があります。
届かない原因が「跳び方そのもの」にあるなら、量を増やす前に技術を直すほうが早く伸びます。症状別の原因と修正ドリル、助走レイアウトの実数値は走り高跳びのコツを症状別の診断表でまとめた記事に。この記事はその続き、「直した動きをどれだけ反復するか」を扱います。
初心者(はじめて〜半年)の1週間
この時期の目的は、はさみ跳びで「真上に跳び立つ」感覚と曲線助走のリズムを身につけることです。跳躍はすべて短助走にします。換算では連続で跳ぶものは接地回数で数えるのがポイントです(30mのバウンディングは1本でおよそ12回)。
| 曜日 | メニュー |
|---|---|
| 月 | 動きづくり/スネーク走3本/はさみ跳び(5〜7歩)10本/体幹(スタビ30秒×3) |
| 火 | テンポ走(120m×4本)/なわとび/補強(上体を反らさない背面の運動) |
| 水 | 助走ドリル(サークル走2周×3、スラローム走)/立ち背面跳び10本 |
| 木 | Rest |
| 金 | 3歩ドリル10本/曲線からのはさみ跳び10本/ミニハードルジャンプ(左右10回×3) |
| 土 | 段階練習の通し(はさみ跳び→曲線から→立ち背面跳び)/短助走跳躍10本/ジョグ |
| 日 | Rest |
最も多い金曜で換算80回(3歩ドリル10+はさみ跳び10+ミニハードル60)、他の曜日は10〜25回。上限100回の内側です。はさみ跳びは日本陸連の手引きが背面跳びの基礎練習として「非常に有効」と位置づける跳び方です。ここを飛ばして背面跳びに移ると、真上に跳び立つ感覚を持たないままバーに向かう跳び方になりやすくなります。
中学生の1週間
中学生は、日本陸連の手引きが示す跳躍の試合期の計画をそのまま土台にできます。太字が走高跳のために編集部が足した部分です。
| 曜日 | メニュー |
|---|---|
| 月 | 動きづくり/テンポ走(80m×5本)/バー上のドリル(立ち背面跳び10本) |
| 火 | SD(30m×2本、60m×2本)/中・全助走跳躍(4〜6本) |
| 水 | ウインドスプリント(150m×4本)/体幹・股関節の補強 |
| 木 | Rest |
| 金 | 助走練習(6本)/バウンディング(30m×3〜5本) |
| 土 | 加速走(20m+30m、20m+50m)×2本/跳躍練習(3〜5本)/3歩ドリル10本 |
| 日 | Rest |
最も多いのは金曜のバウンディング30m×5本=約60回で、跳躍の日(火・土・月)はいずれも換算15回以下。上限100回に余裕があり、残りをスプリントと補強に回せます。
この時期に大事なのは、走高跳だけに絞り込まないことです。日本陸連「競技者育成指針」は中学校期(12〜15歳)について「走跳投種目全般にわたるトレーニングを段階的に開始する」「オーバートレーニングや競技会過多にならないように留意する」としています。走る日が週4日あるのはそのためです。
高校生の1週間
同じ育成指針は高校期(15〜18歳)を、「最適種目への絞り込み(2〜3種目)を開始し、単一の種目に特化した強化に偏ることなく」移行する時期としています。
| 曜日 | メニュー |
|---|---|
| 月 | 動きづくり/助走練習6本/ウエイト(フルスクワット中心) |
| 火 | テンポ走(120m×4本)/ハードルジャンプ(3〜5台×5本)/バウンディング(30m×3〜5本) |
| 水 | 加速走(20m+30m)×2本/短助走跳躍10本/バー上のドリル |
| 木 | Rest |
| 金 | ウエイト(最大筋力)/整える流し(100m×3本) |
| 土 | 全助走跳躍6〜8本(試合形式で1本ずつ間隔をあける)/補強(ボックスジャンプ10回+リバウンドジャンプ5回×3本) |
| 日 | Rest |
土曜の全助走跳躍を6〜8本にしたのは、日本陸連の計画(試合期で4〜6本)が中学生向けだからです。上級者の上限が120〜140回と高いこと、試合では1つの高さにつき3回試技でき2〜3の高さを跳べば全助走が6本以上になることが根拠で、増やすのは本数ではなく1本の質という前提は変わりません。試合より少ない本数でしか練習していないと、本番の後半で跳び方が変わります。
換算は火曜が最多で85回(ハードルジャンプ25+バウンディング約60)、土曜は33回。上限140回への余力は、本数ではなく跳躍前後の休息に使います。試合形式で跳ぶ週は、金曜のウエイトを軽い重量に置き換えるか水曜へ移します(跳ぶ前2日は量を落とす)。
バーの高さは「5回中1〜2回クリア」で決める
毎回の練習で迷うのが、今日どの高さを跳ぶかです。北谷氏の資料には明確な基準があります。
- フォームづくりのドリルは自己最高能力の10〜15cm下で行う
- 5回の試技で1〜2回クリアできる程度の高さでフォームが崩れなければ成功とみなし、5cm高くする
- 崩れていれば5cm下げる。つまり5cm幅で上下させる
同資料はもうひとつ、踏切位置を初めから遠くすることがとても重要だと指摘します。低いバーを近くから跳んでいると、バーが高くなったときに距離感を変えられない癖がつくためで、2m10を目指した選手にはバーが110cmのときでも踏切位置を130cmほど離させたと書かれています。
時期別の練習メニュー|冬季とシーズン中で変えるもの・変えないもの

日本陸連の跳躍の練習計画を期ごとに読む
日本陸連の手引きは1年を鍛錬期(一般的準備期)・仕上げ期(専門的準備期)・試合期・移行期の4つに分けます。中学生の年間スケジュール例では、4〜7月と9〜10月が試合期、8月は「ミニシーズンオフの意味合いがあり、体力的修正を行います」という中間準備、11月が移行期、12〜1月が一般的準備期、2〜3月が専門的準備期です。
手引きの「表5 跳躍の練習計画」から、跳躍がどう変わるかだけを取り出すとこうなります。4期すべてで木曜と日曜がRestです。
| 期 | 時期の目安 | 跳躍の内容 |
|---|---|---|
| 一般的準備期 | 12〜1月 | スピードを伴わない跳躍の形式(立ち幅跳び、立ち背面跳びなど)をW-upやサーキットに組み込む |
| 専門的準備期 | 2〜3月 | 助走練習6本/中・全助走練習4本+跳躍4本 |
| 試合期 | 4〜7月・9〜10月 | 中・全助走跳躍4〜6本/助走練習6本/跳躍練習3〜5本 |
| 試合前の調整 | 試合週 | 全助走跳躍3本/全助走練習3〜5本 |
注目したいのは一般的準備期です。冬に全助走で跳びまくる計画は、公式の練習計画には存在しません。専門的準備期になって初めて「短助走から全助走に段階を踏んで行いましょう」という指示が出てきます。跳躍が最も多い日でも、専門的準備期の土曜で中・全助走練習4本+跳躍4本、試合期の火曜で中・全助走跳躍4〜6本です。
効果が出るまでの時間も書かれています。手引きは「一般的にトレーニングはその開始から2〜3ヶ月で一定の効果(適応)が出始める」としています。冬に始めたことの答え合わせは早くても2か月後です。
冬に変えるのは「回数と重さ」
前出の醍醐直幸氏は、冬季練習でも大きくトレーニングを変えないとし、シーズン中と違うのは回数や重さなどの負荷だと書いています。日本記録を樹立した年は、2月の室内大会に合わせて12月くらいまで基礎ベースのトレーニングにあて、1月初旬から跳躍練習を本格化させたそうです。冬に走り込むと助走がつながらなくなるという悩みには「メインの走練習の後は必ず整える流しを入れています」と答えており、「どんな練習でも自分は走高跳の選手だということを絶対に忘れないでください」という一文が要点を表しています。期分けの組み方は陸上の冬季練習メニューを期分けから解説した記事に。
実物の冬季メニューも同じ方向です。茨城陸上競技協会の第3回冬季強化練習会(走高跳ブロック)は、9時30分から12時30分までの3時間で、技術面のブロックテーマを「自然な内傾動作の獲得」の1つに絞っています。曲線流し100m×4本と助走練習を経て、跳躍は「サークル走からのはさみ跳び→背面→フリー跳躍」の3段階のみ。補強は「時間があれば」の扱いです。
日本記録保持者は冬に何をしていたか
走高跳の日本記録は戸邉直人選手の2m35(2019年2月2日・カールスルーエ室内)です。その戸邉選手が筆頭著者として、自己ベストを2m22から2m31まで伸ばした20か月間のトレーニングを記録した論文があります(コーチング学研究31巻2号)。中高生の冬季練習にそのまま響く記述が3つあります。
- 11月・12月は技術練習をゼロにした年がある。2012年11・12月はスプリント・ウェイト・プライオメトリックを多く実施し、テクニックトレーニングは1度も行わなかったと記されています
- 毎年10月は休養期間で、全トレーニングの頻度が落ちます。月間のトレーニング日数は概ね12〜21日です
- 冬の手応えは記録ではなく別の数字で測る。この時期は走タイムやウェイトの同一重量あたりのレップ数、プライオメトリックの強度や量が向上しており、「順調にトレーニングを進められている手ごたえを感じていた」と書かれています
コントロールテストの変化も公開されています。開始時→期間中の最高値で、クリーン85→120kg、スクワット130→190kg、立五段跳15.80→16.35m、RJ-index 3.68→3.89。冬に伸ばすべきものが数字で示されています。
助走・踏切ドリル|初級者がやる順番と本数の一覧
静岡陸上競技協会の講習会資料「走高跳の基礎技術」(西島信弘氏)は、走高跳の跳躍記録は「得られる跳躍高の約90%が助走から踏切までによって決定される」としています。練習時間の配分も、この比率に寄せるのが理にかないます。
初級者は★印の12項目から手をつける
同資料の「走高跳の具体的な練習方法」には20項目あまりのドリルが並び、うち12項目に**★=「私なりの初級者の重要項目」**の印がついています。★だけを抜き出すと、優先順位がそのまま見えます。
| 区分(編集部で再整理) | ★がついた項目 |
|---|---|
| 助走 | 助走安定①(直線助走の安定)/助走安定②(曲線助走の安定) |
| 踏切 | 着地ドリル①(真上にその場ジャンプ・両脚着地)/着地ドリル②(段差を利用して片脚)/3歩ドリル①(平地・上り坂・下り坂)/3歩ドリル①・②を5歩で実施/サークル跳躍/全助走跳躍 |
| レイアウト | 背中からマットに倒れこみ/立ち背面 |
| 筋力 | ステップアップス/スクワット(原典では踏切の項に併記) |
同資料は全助走跳躍に「全助走練習が完成してから実施」と条件をつけています。順番を守ること自体が怪我の予防です。曲線助走の安定(助走安定②)は、半径5〜7m程度の円を使ってJOG→流し→テンポアップの3段階で上げていく、と手順まで書かれています。
助走ドリル6種
| ドリル | やり方 | 本数 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|
| スネーク走 | コーンを並べ、左右交互に外側を回り込んで走る | 20〜30m×3〜5本 | 内傾すると上体まで折れる |
| スラローム走 | 間隔を詰め、切り返しを速くする | 20〜30m×3〜5本 | 減速して曲がる |
| サークル走 | 半径5〜7mの円を同じ半径のまま走り続ける | 2周×3セット | 1周ごとに半径が変わる |
| 曲線流し | トラックの曲走路を7〜8割で流す | 100m×4本 | 腰が落ちる |
| サークルホッピング | 円周上を片脚で連続ジャンプして進む | 左右各20m×2本 | 上体が内側に倒れ込む |
| 膝を高くした助走からの背面跳び | マークを置き5〜7歩でテンポよく膝を上げて跳ぶ | 5〜7歩×5〜8本 | 踏切準備で腰を下げる |
スネーク走の設定は日本陸連の手引きの図にあり、コーン間隔4〜5m、振幅1.5mでコーンの外側を走ります。最後の1種は手引きの段階練習Step5にあたり、目的は最終歩のリズムの改善です。助走の距離やマークの合わせ方は、3本で合わせる手順を走り幅跳びの助走の合わせ方をまとめた記事で解説しています。
踏切ドリル7種
踏切ドリルは短時間で回数が積み上がるため、換算の対象になります。右端は本数の出どころで、「編集部」は原典に記載がなく上限の枠から逆算したものです。
| ドリル | やり方 | 本数 | 強度 | 本数の出どころ |
|---|---|---|---|---|
| 着地ドリル | 真上にその場ジャンプして両脚で着地。慣れたら段差から片脚で | 10〜20回 | 低 | 編集部 |
| 3歩ドリル | 「ターン・タ・タン」のリズムで3歩から踏み切る。コーンは1m20〜1m。平地・上り坂・下り坂を使い分ける | 10〜15本 | 中 | 編集部 |
| 5歩ドリル | 同じリズムを5歩に伸ばし、曲線を使って行う | 8〜10本 | 中 | 編集部 |
| 1歩ジャンプ | 1歩だけ踏み込んで踏切脚を突っ張り、真上に跳ぶ | 20〜80回 | 中 | 北谷静雄 |
| サークル跳躍 | 半径3〜6mの円を走り、内傾したまま真上に跳び立つ | 10〜15本 | 中 | 編集部 |
| ハードルジャンプ | 低いハードルを並べ、間で止まらずすぐ切り返す。片脚は踏切動作に近い | 3〜5台×5本 | 中 | 編集部 |
| バウンディング | 大きく跳び進む。30mでおよそ12接地 | 30m×3〜5本 | 中 | 日本陸連 表5 |
設定値(リズム、コーンセッティング、坂の使い分け、円の半径)は前出の「走高跳の基礎技術」にあり、同資料に本数の記載はありません。1歩ジャンプの20〜80回は北谷氏の「走高跳模擬ジャンプドリル」、バウンディングは日本陸連の表5の数値です。西島氏はジャンプトレーニング全般について「筋力がないとジャンプトレーニングの効果は期待するほど出ない。筋力UPが必須」とも補足しています。
リバウンドジャンプで「何を狙うか」を決める
リバウンドジャンプ(RJ)は、その場で連続ジャンプを繰り返し、跳躍高÷接地時間でRJ-indexを出すテストです。多くの選手は接地時間を短くしようと考えますが、走高跳では優先順位が違う可能性があります。図子あまね氏らが男子跳躍選手33名(うち走高跳7名)を測定した研究(体力科学66巻1号)では、競技力との相関は跳躍高 r=0.587 > RJ指数 r=0.403 > 接地時間 r=0.045 で、接地時間だけ有意な相関がありませんでした。国際大会出場経験のある日本トップの走高跳選手3名は、全員が「接地時間は長いが跳躍高が高い」タイプです。続く縦断研究(体育学研究65巻、跳躍選手41名)は、接地時間は初期値が短い者は短縮が難しいが、跳躍高は初期値に依存せず伸びるとしています。
判定は絶対値ではなく相対値で行います。2017年の研究は標準得点化してT score 50(=集団の平均)を境に4タイプへ、2020年の研究は平均±0.5標準偏差でShort/Middle/Long群へ分けており、どちらも「何秒以下なら短い」という基準は示していません(参考値として、41名の接地時間は0.155±0.014秒)。部内の平均からのずれで判断してください。
| いまのRJ | 見えている課題 | 練習で狙うこと |
|---|---|---|
| 接地時間が平均より長く、跳躍高も低い | 両方に伸びしろがある | まず低い高さのハードルジャンプで切り返しを速くする |
| 接地時間は平均より短いが跳躍高が低い | 接地時間はこれ以上縮まりにくい | 跳躍高側を狙う。ボックスジャンプやスクワットで出力を上げる |
| 接地時間は平均より長いが跳躍高は高い | 日本トップの走高跳選手と同じ型 | 跳躍高を維持したまま接地を詰める。片脚ハードルジャンプ |
バー上の動きのドリルと補強メニュー
立ち背面跳びは「反りを早くしない」
バー上の動きを作る基本ドリルは立ち背面跳びです。日本陸連の手引きは段階練習のStep4に位置づけ、地面またはボックスから踏み切る、ゴムバーで高さを上げ下げする、マットの高さを変える、といった行い方を示しています。★印の「背中からマットに倒れこみ」と、3〜5歩助走で頭上の目標物にタッチするドリルも姿勢づくりに使えます。空中動作のやり方は前掲の走り高跳びのコツの記事にゆずります。
本数は1回の練習で10本前後が目安です(原典に記載はなく、上限の枠からの逆算)。低強度なので換算は等倍ですが、腰を反る動作が続くため、反りが早くなる・腰だけで反る・真上に跳べずバーに倒れ込む、のどれかが出たらその日は打ち切ります。手引きの留意点も「反りを早くしない」「自然な反りの動作を身に付ける」です。
補強はフルスクワットを優先する
補強の優先順位には根拠があります。熊野陽人氏らが大学男子跳躍選手28名(うち走高跳7名)の20mスプリントタイムと最大挙上重量の関係を調べた研究(大阪体育学研究59巻)の結果です。
| 種目 | 20mスプリントタイムとの相関 |
|---|---|
| ベンチプレス1RM | r=−0.289(有意差なし) |
| パワークリーン1RM | r=−0.234(有意差なし) |
| フルスクワット1RM | r=−0.496(有意) |
体重比で見てもフルスクワットのみが有意でした。論文は、跳躍選手のショートスプリントには大殿筋による股関節伸展力を反映する力発揮能力が関係すると示唆しています。ウエイトに割ける時間が週2回なら、まずここに充てる判断ができます。体幹は時間より意識で、手引きはスタビライゼーションについて「『耐える』ことが目的ではなく、『どこの筋肉を使っているのか』に意識を向けましょう」としています。種目ごとの回数は陸上の補強トレーニング32種目の記事にあります。
ウエイトは高校生以降に段階的に
静岡陸協の資料は、成長段階によるアプローチの違いを次のように整理しています。
小学校〜中学校では筋力的なアプローチよりも、反射的なアプローチからバネを強化し、神経系の能力を高めると効果が高まりやすく、高校生以降は自重以上の負荷をかける等、筋力的なアプローチを増やしながら、バランスよくトレーニングを行っていく
「筋トレすると身長が伸びなくなる」は、日本陸連の手引きが「全くの迷信なのです。このことは1990年代には明らかになっていた」と明記しています。ただし「過度な体力トレーニングは怪我の原因になる」とも付け加えており、問題は年齢ではなくフォームと負荷の大きさです。
そのフォームの身につけ方も静岡陸協の資料に具体的です。動作のコーディネートを高めるには「低出力な状況で繰り返し正しい動作を行い、体が勝手にできる状況を作ることが大切」で、自分の動作は理解しにくいため「自分の動画を見て理解し、比較することが効果的」だとしています。スマホで撮った1本を見返す時間は、跳躍をもう1本足すより価値があります。
高校生がウエイトを本格的に入れる場合は、岐阜県スポーツ科学センターがパリ五輪を目指す男子走高跳選手1名(29歳・自己ベスト2m31・論文では匿名)を支援した報告(岐阜県スポーツ医科学研究4巻)の「可能最大反復回数から1〜2回のゆとりを設ける」「セット間休息は最低2分以上」という考え方が参考になります。世界ランク上位の選手への処方なので負荷はそのまま真似られませんが、限界まで追い込まないという原則は部活でも変わりません。
成長段階で避けるべき練習5つ
熱心な選手ほどやってしまい、しかも効果が出にくい練習を公的資料の根拠つきで挙げます。
| 避けるべき練習 | 理由 | 代わりにやること |
|---|---|---|
| 毎日の全助走跳躍 | 公式の練習計画でも跳躍は週2日 | 跳ばない日は助走ドリル・走練習・補強に充てる |
| 週6日以上・年齢×1時間超の練習 | 疲労骨折で来院した選手の71.3%が週6日以上 | 週2日以上の休養日。平日2時間・休日3時間を上限に |
| 腰を反る・ひねる体幹トレーニング | 腰椎は回旋が得意ではなく、椎間関節炎や分離に発展しうる | 体幹を安定させて力を入れる。回旋は背中や胸を回す意識で |
| フォームが崩れた状態での高い台のデプスジャンプ | 負荷が大きすぎると怪我をする。フォームが先 | 台を30cm程度に下げるか低いハードルジャンプに置き換える |
| 1種目への早期専門化 | 中学校期は走跳投をバランスよく高める時期 | スプリント・他の跳躍種目も残す |
3つ目は背面跳びの選手に特に重要です。日本整形外科学会の腰椎分離症の解説は、「多くは体が柔らかい中学生頃に、ジャンプや腰の回旋を行うことで腰椎の後方部分に亀裂が入って起こります」「一般の人では5%程度に分離症の人がいますが、スポーツ選手では30〜40%の人が分離症になっています」と説明しています。
日本陸連の手引き5章は予防をトレーニング側から書いています。回旋を伴う動作は背中や胸を大きく回す意識で行い、腰をひねる意識は正しくないこと。そして「腸腰筋は、腰椎の前弯(反り)を強める要素となるため、体幹を反らせると痛い腰痛の場合には、実施を控えるか注意して行う必要があります」としています。バー上で反る種目だからこそ、補強で腰を反らせにいく必要はありません。
同じ章には疲労骨折を疑うサインもあります。押さえたときにピンポイントの痛みが出る、片脚ジャンプ(ケンケン)で患部に疼痛が出る、腫れや痛みが局所的に強い、の3つです。レントゲンは痛みが出てすぐだと写らないことも多いとも書かれています。痛みが続く場合は自己判断せず、専門家に相談してください。
よくある質問
走り高跳びの練習は毎日跳んだほうが上達しますか?
跳躍に関しては逆です。H2-1で見たとおり全助走跳躍は週2〜3回で足ります。跳ばない日に助走ドリル・スプリント・補強を積むことが、結果的に跳躍の質を上げます。
冬は跳ばなくていいのですか?
跳びます。ただし一般的準備期(12〜1月が目安)の跳躍は「スピードを伴わない跳躍の形式(立ち幅跳び、立ち背面跳び、など)」で、全助走が計画に戻るのは専門的準備期からです。戸邉選手も11・12月に技術練習を1度も行わなかった年があります。
中学生でもウエイトトレーニングをしていいですか?
静岡陸協の資料は、小中は反射的なアプローチで神経系を高め、高校生以降に自重以上の負荷を増やすのが効果的だとしています。中学生は自重の補強とジャンプ系を中心に、フォームの習得を優先してください。
自宅やマットがない場所でできる練習はありますか?
3〜5歩助走で頭上の目標物にタッチする練習5本、着地ドリル10〜20回、重量のある縄での二重跳び、鉄棒の懸垂逆上がりは、マットもバーも使いません。後ろの2つは醍醐氏が東京高校で取り入れている練習で、「雨の日以外は必ず鉄棒練習」をし、最初の目標を懸垂逆上がり10回に置いていると書かれています。曲線の感覚はコーンを4〜5m間隔で並べたスネーク走で維持できます。
記録が止まったら、何から見直せばいいですか?
順番は「量→技術→筋力」です。まず総跳躍回数と週の練習時間が上限を超えていないかを数えます。次に、バーに当たる位置や外れ方から技術の課題を特定します。最後にRJや立五段跳を測り、跳躍高と接地時間のどちらに伸びしろがあるかを確認します。
まとめ
走り高跳びの練習メニューは、ドリルを増やすのではなく、量の枠を決めてから中身を入れると整います。
- 総跳躍回数は初心者80〜100回、中級者100〜120回、上級者120〜140回。高強度は1.5倍で換算する
- 全助走の跳躍は週2〜3回。日本陸連の試合期の計画でも跳躍は週2日・3〜6本
- 練習時間は週2日以上の休養日、平日2時間・休日3時間を上限に
- 一般的準備期(12〜1月)の跳躍はスピードを伴わない形式。全助走が戻るのは専門的準備期から
- 冬の手応えは記録ではなく、走タイム・ウエイトのレップ数・ジャンプの強度で測る
- 初級者は★印の12項目から。ドリルを足す前にフルスクワットで筋力を上げる
跳躍本数は、数えていなければ守れません。陸上練習ノートアプリ「TRACK HUB」では、その日の跳躍本数・高さ・ドリルの回数を記録でき、週単位の合計も自動で出せます。記録の残し方に迷うときは、陸上ノートの書き方を7ブロックで整理した記事も参考にしてください。



