陸上の冬季練習メニューで最初に決めるのは、練習の種類ではなく「期分け」と「1日に使える時間」です。日本陸上競技連盟(以下、日本陸連)の公式手引きは、冬にあたる一般的準備期を「低めの質で多くの量をこなし、基礎体力を高める」時期と定義しています。そのうえで「練習時間が2時間もない学校は少なくない」とも書いています。冬季練習とは、限られた時間で何を捨てるかを決める作業です。

この記事は中学生・高校生と、その指導者・保護者に向けてまとめました。

この記事でわかること

  • 公式手引きが定める冬の期分けと、月ごとに狙いを変える順序
  • 短距離・中長距離・跳躍・投てきの一般的準備期メニュー(公式資料をもとに整理)
  • 日没時刻と部活動ガイドラインから逆算した120分・90分・60分の時間配分
  • 指導現場のコーチが実践している冬季の練習比率・サイクルと、YouTube解説で語られる失敗パターン

陸上の冬季練習メニューは「期分け」で決まる|結論から

冬の朝日が差し込む陸上競技場のトラック

メニューが決まらない原因は、ほぼ「いまがどの時期なのか」が決まっていないことです。日本陸連『中学校部活動における陸上競技指導の手引き』4章 練習計画の立て方(PDF)は、1年を4つの期に分ける考え方を示しています。

期分け内容(手引きの記述)
一般的準備期(鍛錬期)低めの質で多くの量をこなし、基礎体力を高める
専門的準備期(仕上げ期)量を徐々に減らし、質を高めていき、状態を上げていく
試合期目指す大会に臨む。高い質が求められる
移行期心身の疲れをとり、1年間の反省をする

同手引きは表1の年間スケジュールと、表2「年間練習計画の概要(短距離走を例として)」で月への割り当てを示しています。目的の記述は短距離走を例にしたものですが、月の区切り自体は全種目に共通です。

月期分けこの時期の目的
11月移行期1年間の反省と来シーズンに向けての目標を立てる/疲労を取り除く
12月〜1月一般的準備期次のシーズンに向けて基礎体力の向上を図る
2月〜3月専門的準備期専門的な練習へ移行し、試合の形式に近い内容で質を上げていく
4月〜10月試合期(8月は中間準備)練習の成果を発揮する/目標の大会にコンディションを合わせる

ここから読み取れる設計原則は3つです。

1. 11月は追い込む月ではない。 手引きは移行期の練習内容に「球技スポーツを活用する」「他種目への挑戦を含め多種目を行う」を挙げています。冬季練習の初日は12月と考えるほうが、公式の期分けには沿います。

2. 12〜1月は「量」、2〜3月は「質」。 一般的準備期に並ぶのは、サーキットトレーニング、テンポ走、エンドレスリレー、負荷走(レジステッド走:坂道、階段、砂浜、タイヤ引きなど)。留意点は「特定の練習に偏らず、体力を全般的に鍛える」です。

3. 2月に入ったら量を減らす。 専門的準備期の内容はスプリントドリル、加速走、スタートダッシュ、レペティションに切り替わります。留意点は「急激なスピード変化を行わず、徐々に上げていく」。2月も走り込みを続けるのは、公式の期分けから外れた設計です。

つまり「冬季練習=走り込み」は、一般的準備期の一部だけを指す理解です。手引きが留意点に置くのは走行距離ではなく「体力を全般的に鍛える」ことで、メニュー例にはメディシンボール投げや球技のウォーミングアップまで含まれます。

冬季練習に使える時間は1日2時間もない|時間予算から逆算する

メニューが破綻する2つ目の原因は、時間の見積もりです。手引きはスポーツ庁のガイドラインを引いたうえで「特に冬の部活動の時間は、下校時間が早く設定されているため、練習時間が2時間もない学校は少なくありません」と述べています。

現行の基準は、スポーツ庁・文化庁が2022年12月に定めた学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン(PDF)です。

  • 学期中は、週当たり2日以上の休養日を設ける(平日は少なくとも1日、土曜日および日曜日は少なくとも1日以上)
  • 1日の活動時間は、長くとも平日では2時間程度、学校の休業日は3時間程度とし、できるだけ短時間に、合理的でかつ効率的・効果的な活動を行う

注記では、日本体育協会(当時)が2017年12月に示した「週当たりの活動時間における上限は、16時間未満とすることが望ましい」という見解も引かれています。

平日2時間×4日+週末3時間×1日で計11時間。これが現実的な上限です。走り込みだけで枠を埋めれば、補強もドリルも入りません。

冬に練習時間が減るのは「日没」が理由

なぜ冬だけ時間が足りないのか。国立天文台暦計算室の日の出入りデータ(東京・2026年12月)で東京の日の入りを追うと理由がはっきりします。

日付日の出日の入り
2026年10月1日5:3517:26
2026年12月1日6:3216:28
2027年1月1日6:5016:38
2027年2月1日6:4117:08
2027年3月1日6:1217:36

10月1日から12月1日までに、日の入りは58分早くなります。夏と同じ時刻に始めれば、それだけで1時間分の明るさが消える計算です。逆に2月1日には17:08、3月1日には17:36まで戻り、専門的準備期に入る時期と明るさが戻る時期はおおむね一致します。

同じデータから、意外な事実も2つ読み取れます。

  • 日の入りが最も早いのは冬至ではありません。 東京では2026年11月のデータと12月のデータを合わせると、11月29日から12月13日までの15日間が16:28で最も早くなります。冬至の12月22日にはすでに16:32まで戻っています。
  • 日の出が最も遅いのは1月上旬です。 2027年1月のデータでは、東京の1月2日〜13日が6:51。冬至を過ぎても朝は暗くなり続けるため、朝練習の環境が最も悪いのは1月です。

条件が最も厳しいのは、夕方は12月上旬、朝は1月上旬です。この2つの谷を避けて、明るさが必要な練習(跳躍の助走合わせ、投てき、バトンパス)を前後にずらすと、冬に潰れる練習日を減らせます。

自分の地域の「暗くなる時刻」で設計を変える

日の入り時刻は地域で2時間近く違います。2026年12月の国立天文台データを比べると次のとおりです。

地点12月1日の日の入り12月中で最も早い日の入り
根室(北海道)15:4315:42(12月4〜14日)
仙台(宮城県)16:1716:16(12月3〜11日)
東京(東京都)16:2816:28(12月1〜13日)
高知(高知県)16:5816:58(12月1〜12日)
那覇(沖縄県)17:3717:37(12月1〜6日)

根室で15時台に日が沈む環境と、那覇で17時半過ぎまで明るい環境で、同じ「放課後に走り込み2時間」は成立しません。ネット上の冬季練習メニューがそのまま合わないのは、多くの場合この差が理由です。まず地域の日の入り時刻を調べ、下校時刻から「走れる分数」を確定させてください。

120分・90分・60分の配分テンプレート

確定した分数に一般的準備期の内容を割り付けたテンプレートです。手引きが挙げる要素を時間の制約で優先順位づけした、本記事の設計例です。

区分120分(休業日)90分(標準的な平日)60分(下校が早い日・雨天)
ウォーミングアップ20分(動的中心)18分15分
動きづくり・ドリル20分15分10分
メイン練習45分35分20分
補強・サーキット25分15分10分
クーリングダウン10分7分5分

60分枠でまず削るのはメイン練習の本数で、ウォーミングアップは削りません。寒い日のアップ短縮は、後述のとおりケガのリスクを直接上げます。「テンポ走120m×4本を2本に」と本数で調整し、質は落とさないのが原則です。

【種目別】一般的準備期の1週間メニュー

冬の並木道の緩やかな上り坂。坂道走の練習環境のイメージ

ここからが本体です。日本陸連の手引きは種目群ごとに一般的準備期の1週間メニューを例示しており、以下は同手引きの表3〜表6から該当部分を種目別に整理したものです。サーキットトレーニングの中身は後述します。

短距離の冬季練習メニュー(1週間)

曜日主な練習内容
月動きづくり、ビルドアップ走(80m×5本×2セット:1本ごとに少しずつ加速、70〜80%)
火ハードルドリル、テンポ走(120m×4本×2セット、80%)
水ウォーミングアップ(球技)、動きづくり、メディシンボール投げ(前後各5本)
木Rest
金ウォーミングアップ(球技)、サーキットトレーニング(8種目×3周)
土坂道走(50m×5本、70m×3本、100m×1本)
日Rest

手引きのポイントは「スピードを上げ過ぎず、正しいフォームでリラックスして走ることを意識しましょう」。設定は70〜80%で全力疾走が1本も入らず、芝生や坂道、砂浜、ミニハードル、鉄棒などで多様な刺激を与えることも勧められています。フォームの整え方は100mを速く走るための練習メニューと動作のポイントに、ハードルドリルの動きはハードル走のコツと3歩のリズムの作り方にまとめています。

中長距離の冬季練習メニュー(1週間)

曜日主な練習内容
月動きづくり、ペースランニング(4000〜6000m)
火サーキットトレーニング(8種目×3周)
水ウォーミングアップ(球技)、動きづくり(ハードル)、ジョギング30分
木Rest
金ウォーミングアップ(球技)、クロスカントリー(野外走)40分
土インターバルランニング(1000m×4〜6本、200mジョグつなぎ)
日Rest

手引きは「走る練習以外にも補強運動を積極的に取り入れ、基礎体力や筋力を高めましょう」としています。クロスカントリーは芝生で足への負担を軽減し、フォームや体幹を意識するのがポイント。走行系は週4日で、残りはサーキットとRestです。中距離のレース対応力は800mの練習メニューとペース設定の考え方も参考にしてください。

手引きは11月から3月について「ロードレースや長距離に特化した記録会が多くなります」とも記しています。中長距離の冬季はオフではなく試合を挟む期間です。駅伝やロードレースの日程を先に押さえてから週の型を決めてください。

跳躍の冬季練習メニュー(1週間)

曜日主な練習内容
月動きづくり、ウインドスプリント(120m×3本)、バウンディング(30m×5本)
火サーキットトレーニング(8種目×3周)
水ウォーミングアップ(球技)、動きづくり、縄跳び
木Rest
金ウォーミングアップ(球技)、ハードル走(低いハードルを用いる)
土テンポ走(300m×3本)、ホッピング(30m×左右各2本)
日Rest

手引きは「跳躍運動はウォーミングアップやサーキットトレーニングの中に組み込みましょう」とし、跳躍は立ち幅跳びや立ち背面跳びなどスピードを伴わない形式を勧めています。一般的準備期に全助走跳躍が入らないのは重要な点で、助走を合わせるのは専門的準備期(2〜3月)の課題です。手順は走り幅跳びの助走の合わせ方と歩数の決め方で解説しています。

なお手引きの注記では、ウインドスプリントは「あるスピードまで上げたら、そこからは慣性を利用して走る。全力疾走ではなく、リラックスして余裕のあるスピードで走る」と定義されています。

投てきの冬季練習メニュー(1週間)

曜日主な練習内容
月動きづくり、ウインドスプリント(120m×3本)、バウンディング(30m×5本)
火サーキットトレーニング(8種目×3周)
水ウォーミングアップ(球技)、動きづくり、メディシンボール投げ(10本)
木Rest
金ウォーミングアップ(球技)、テンポ走(150m×3本)、ホッピング(30m×左右各2本)
土メディシンボール投げ×20本、坂道走(50m×6本)
日Rest

手引きは「投てき物は、正規重量のものでなくても構いません」としています。メディシンボールの横手投げや後方投げ、野球ボールやタイヤなど多様な道具を使う想定で、冬季に正規重量を投げ込む設計ではありません。投げの基本動作は砲丸投げの投げ方と基礎練習の順序にまとめています。

サーキットトレーニングの中身をどう組むか

体育館に並ぶメディシンボールや縄跳び、ミニハードルなどの補強用具

4種目すべてに「サーキットトレーニング(8種目×3周)」が入りますが、手引き4章は種目名を指定していません。中身は同手引き3章 練習手段・方法と指導上の留意点「体力トレーニング」(PDF)を参照する構成です。3章は部位ごとの運動形態を7つに整理しています。それを1周で埋める形に組んだのが次の8種目です(種目名は3章に掲載されているもの。7区分に加えた5行目「バネ要素」と、組み合わせ・順序は本記事の設計例)。

順部位・運動形態種目
1上半身・押す腕立て伏せ
2上半身・引く斜め懸垂
3体幹・曲げる(腹筋)上体起こし
4体幹・反らす(背筋)上体反らし
5下半身・伸ばす(前腿・臀部)スプリットジャンプ
6下半身・バネ要素リバウンドジャンプ
7下半身・曲げる(後腿・股関節)ヒップレイズ
8全身メディシンボール前投げ

3章は「雨や雪などで室内しか使えない場合や練習時間が短い場合、6種目前後で構成したサーキットトレーニングを展開する」と短時間で強度の高いトレーニングができるとしています。時間が取れない日は8種目を6種目に減らすのが公式資料に沿った削り方です。ただし「がむしゃらにこなすだけでは十分な効果を得ることができません」という注意も添えられています。

4種目のメニューに共通する設計

種目が違っても、骨格は共通しています。

1. 木曜と日曜がRest。 2日を完全休養に固定し、平日の中日に1日置く配置は、ガイドラインの「平日は少なくとも1日、週末は少なくとも1日以上を休養日とする」と一致します。

2. 低〜中負荷の日を週2日つくる。 中長距離・跳躍・投てきは火曜がサーキット、短距離だけはサーキットが金曜で火曜はハードルドリルとテンポ走です。4種目に共通するのは、球技のウォーミングアップから入る日があること。手引きは「専門とする種目が異なっていても、スプリント練習や補強運動などを全員で実施することも1つの手段です」と述べており、この日は種目混合で回せます。

3. 量の多い内容は土曜に集まる。 休業日の3時間枠を使い、直後の日曜に回復時間を確保する形です。

土曜の中核になる坂道走は、実施要領を決めておくと質が安定します(以下は本記事の運用例)。勾配は数字で選べないことが多いので、フォームを崩さずに走り切れる坂を基準にしてください。戻りは走らず歩いて下り、呼吸が整ってから次の1本へ。意識するのは接地を体の真下に置くことと、上体を倒しすぎないこと。路面が凍る朝や雨上がりの日は中止し、屋内のサーキットに振り替えます。

練習日が週5日なら、水曜(低負荷・多種目)を落として月・火・金・土+Rest3日に圧縮するのが、骨格を崩さない削り方です。

高校生・400mはどう読み替えるか

手引きは中学校部活動を対象にした資料ですが、期分けの考え方は高校でも共通です。読み替えは2点あります。

種目内の差。手引き自身が「短距離走の中でも、100m走と400m走では練習内容が異なります」と注意しています。跳躍についても「走高跳と走幅跳では同じく練習内容が異なります」としており、「距離や休息時間、跳躍方法などを適宜変更し、活用してください」と添えられています。400mならテンポ走を120mから200〜300mへ伸ばす方向、走高跳なら曲線助走を意識した動きづくりへ、という調整になります(具体的な距離と動きの選び方は本記事の適用例です)。

時期の当てはめ。手引きの年間スケジュールは、地区大会・夏季総体・通信陸上・全中・ジュニアオリンピック・全国駅伝といった中学校の大会日程を前提に組まれています。高校生は主要大会の並びが違うため、月の割り当てをそのまま使わないでください。後述するStep 1の逆算を、自分の高校の日程でやり直すのが先です。

12月・1月・2月で何を変えるか|月別の進め方

同じ「冬季練習」でも、12月と2月でやることは変わります。手引きの期分けと負荷動態(一般的準備期は量が高く強度が低く、専門的準備期に向けて量が下がり強度が上がる)に沿うと次のようになります。

月期分け狙い量・強度月末のチェック
11月移行期反省と目標設定、疲労を抜く量↓ 強度↓来季の目標大会と目標記録を書けたか
12月一般的準備期基礎体力の土台づくり量↑ 強度↓フォームが崩れずに設定本数を消化できるか
1月一般的準備期量を維持しながら耐える量→ 強度やや↑週2日の休養を守れているか、痛みが残らないか
2月専門的準備期量を減らし質を上げる量↓ 強度↑全力に近い動きでフォームが保てるか
3月専門的準備期試合形式へ移行量↓↓ 強度↑↑記録会で冬の成果を確認できたか

この切り替えを「もう少し走り込みたい」で引き延ばすと、専門的準備期が足りません。手引きは留意点を「急激なスピード変化を行わず、徐々に上げていく」としており、2月を丸ごと使ってスピードを戻す前提です。加速走やスタートダッシュの入り方はスタートダッシュのコツと1歩目の作り方にまとめています。

効果が出るのは「2〜3か月後」|サイクルで判断する

冬季練習が続かない最大の理由は、12月中に結果が出ないことです。手引きは練習の周期を3層で説明しています。ミクロサイクルは1〜2週間、メゾサイクルはおよそ4〜8週間、マクロサイクルは4か月〜1年です。そのうえでメゾサイクルについて「一般的にトレーニングはその開始から2〜3か月で一定の効果(適応)が出始める」と書いています。

12月に始めた練習の効果が出るのは2〜3か月後、つまり2〜3月です。12月と1月に手応えがないのは設計どおりで、そこでメニューを変えると適応が起きる前にリセットしてしまいます。判断は4〜8週間単位で行ってください。

これを運用に落としている例があります。ゆめおり陸上クラブの中高生の冬期練習の在り方で、棒高跳の尾﨑コーチは1か月の組み方として、最初の3週間は少しずつ強度を上げ、残りの1週間は強度を下げる構成を挙げています。手引きのメゾサイクルを、現場では「3週漸増+1週リカバリー」に分けている形です。同コーチは冬期の内容比率も年代で変えるとし、ユース期は基礎3:走り4:技術3、ジュニア期は基礎3:走り3:技術4を挙げています。走りの比重を技術へ移す配分で、後述する手引きの考え方と一致します。

移行期については、SPRINT ACADEMY SHIZUOKAの移行期でやっておきたい3つのコトが参考になります。移行期を2週間〜1か月とし、うち1週間くらいは何もしない完全休息にあててよいとしています。同団体の代表は川瀬聡一朗さんで、本人のYouTube概要欄によると、スプリントスキルコーチとして浜松商業高校陸上競技部の短距離コーチを務めています。別競技に取り組むと気づきがあるという点も、手引きの「他種目への挑戦を含め多種目を行う」と重なります。11月に1週間休むのを「サボり」と感じる必要はない、という裏づけです。

YouTubeの解説から|冬に「偏り」が出ると春に崩れる

同アカデミーは短距離の冬季練習をYouTubeでも解説しています。2本の動画の概要欄から、鍛錬期の内容の偏りについての指摘を引きます。

動画シーズンインで苦戦する…冬期練習で不足しがちな3つの要素と改善法の概要欄には、鍛錬期に不足しがちな練習があるとあります。それをおろそかにするとシーズンインがうまくいかないことがある、という指摘です。想定読者として挙がっているのは「冬季練習の内容に偏りがある」「鍛錬期で調子が上がらない」という状態です。動画では見直したい3つのポイントと改善法が解説されています(本記事は概要欄で公開されている範囲のみを引用)。

記事側の結論はシンプルです。手引きの一般的準備期メニューが走・跳・投・補強を毎週すべて含むのは、この偏りを構造的に防ぐ設計だということ。留意点の「特定の練習に偏らず、体力を全般的に鍛える」が、現場では「偏りが春に出る」と語られているわけです。

2月の扱いも具体的です。動画冬季の総まとめ!2月の練習スケジュールとおすすめトレーニングの概要欄も2月を鍛錬期の大詰めと位置づけ、走り込みとスピード練習の両方をバランスよく組む必要があるとしています。月別表の2月「量を減らし質を上げる」は、走り込みをゼロにすることではありません。走り込みを残しながらスピードの比率を上げていく移し方が、現場の運用に近い解釈です。

冬季練習でケガをしないための3手順

避けたいのは、2〜3月に効果が出るはずのタイミングで故障することです。寒冷期のリスクには、次の3つの手順で対処します。

ウォーミングアップは静的より動的を優先する

日本スポーツ協会のメディアJSPO Plus「冬ランなど寒い日に走るならケガ予防は入念に!」で解説しているのは、JSPO公認アスレティックトレーナー・陸上競技コーチ1・理学療法士の岡戸敦男さんです。同記事は、冬は筋温が下がって筋肉が固まり、柔軟性を失った状態になると説明しています。そのまま動き出すと肉ばなれや関節痛、腱の炎症のリスクが高まります。対策は、体が冷える静的ストレッチではなく動的ストレッチです。同記事の種目と回数は次のとおりです。

種目回数・時間
スウィングエクササイズ(脚を大きく振る)左右10〜20回
殿筋群・腸腰筋のストレッチ(反動をつけて)20〜30秒
ハムストリングス・大腿四頭筋のストレッチ(同)左右20〜30秒
カーフレイズ10〜20回
スクワット(母趾球に荷重)10回
ランジエクササイズ10回
ランジウォーク左右10歩

服装も具体的です。手袋は腕振りの悪化とフォームの崩れを防ぐため必須、足首の保温にはレッグウォーマーか長めのソックス、厚手1枚より薄手の重ね着で温度調整、という指摘も実務に直結します。

クーリングダウンは静的ストレッチと汗冷え対策を分ける

同記事のクーリングダウンは、数分ペースを落としてジョギングし心拍数を下げ、反動を使わない静的ストレッチを2〜3セット行う手順です。

注意点は汗冷えです。汗をかいた状態で屋外でストレッチをすると汗が乾かず体を冷やすため、着替えたあとに行うか、帰宅後に本格的なストレッチを行う2段階方式が勧められています。学校の練習でも、ジョグとダウンだけ屋外で済ませ残りは室内に移るほうが理にかなっています。

冬季は走行量が増えるぶん、すね内側の痛み(シンスプリント)が出やすい時期です。対処と復帰の考え方はシンスプリントの原因と復帰までの進め方にまとめました。痛みが数日以上続く場合や安静時にも痛む場合は、自己判断で練習を続けず整形外科などの専門家に相談してください。

なお一般的準備期は芝生・坂道・砂浜での走練習が中心で、スパイクを履く頻度は試合期より下がります。冬のあいだにサイズが合わなくなることも多いため、2月に入る前に一度確認しておくと安心です(陸上スパイクの選び方と1足目の決め方)。

休息を「練習」として計画に書く

手引きは「休養も大切な練習の1つです。練習効果を高めるためには、十分な休息が必要となります」と明記しています。根拠は超回復です。練習による疲労は個人差はあるものの24〜48時間程度で回復し、それまでの状態以上にまで高められる。一方で「十分な回復が行われず、回復の途中で練習を行うと超回復する間もなく疲労が蓄積していき、身体の状態は高まらず、それどころか低下していきます」。これがオーバートレーニングで、手引きは「明らかな練習のし過ぎ、そして、休息が足りないことを意味しています」と定義しています。

追い込みたい時期こそ、この24〜48時間が守れているかを確認してください。休養日を「何もしない日」ではなく「超回復を起こすための練習日」として計画表に書き込むだけで、冬の後半の伸びが変わります。

冬季練習メニューの作り方|5ステップ

ここまでの内容を、自分のチーム用のメニューに落とす手順です。

前提:全員に同じメニューを課さない

手引きは個別性の原則として、中学校期に考慮すべき要因に発育発達と性別を挙げています。そのうえで「中学校期においては、生物学的年齢と暦年齢との間には最大で約4年の年齢差が生じることが報告されています」と述べています。中学2年生の教室に、成熟度で見れば小学6年生相当と高校1年生相当が並ぶ可能性があるということです。走り込み本数を一律にすると、この差がそのまま故障の差になります。

もう1つが適時性です。柔軟性、敏捷性(速度)、スキル、持久力、筋力が伸びる時期は体力要素ごとに異なり、男女で発育速度のタイミングも違います。だから手引きは「発育速度のタイミングに合わせて練習内容を考えましょう」としています。

あわせて全面性の原則として「特にトレーニングの初期段階において、基礎づくりのための全面的な能力のトレーニングが必要になります」と述べています。年齢が低いうちは全面的トレーニングの比率を高く取る目安も示されています。

中学生の冬季練習は、専門種目より全員共通の走り・跳び・投げ・補強に時間を割いてよい。手引き自身が「この種目にはこの練習だと限定せずに、全身を万遍なく様々な方法で練習することも必要です」と書いています。

Step 1〜5

Step 1|目標大会を1つ決めて逆算する 手引きは年間プランについて、こう書いています。「どの大会を1年間の最大の目標とするのか、そのためにはいつから準備を開始しなければならないのか、などを逆算し、計画を立てていく必要があります」。定期試験や長期休暇も同時に書き込みます。

Step 2|12〜1月=一般的準備期、2〜3月=専門的準備期に割る 月別表を自分の月に当てはめ、切り替える日付を先に決めます。「調子を見て決める」にすると、ほぼ確実に後ろへずれます。

Step 3|1日に使える分数を確定する 地域の日の入り時刻と下校時刻から、走れる分数を出します。120分・90分・60分の配分を当て、週の合計が16時間未満に収まるかを確認します。

Step 4|週の型を作り、負荷の高低を配置する Restを2日固定し、量の多い内容を休業日に、低〜中負荷を平日の中日に置きます。手引きは「練習の負荷は強度や量だけでなく、頻度も考慮して設定しましょう」「5段階の数値で示すなどわかりやすく表記することもよいでしょう」としています。

Step 5|書いて、振り返る 手引きの月間練習計画表には、月間目標、週間課題、日付ごとの内容、強度、量、備考、そして「ふりかえり」の欄があります。「内容や場所の予備もあらかじめ考えておくとよいでしょう」という注意も添えられており、雨天時の60分メニューを先に決めておくのが実務的です。

最も難しいのはStep 5です。前述の尾﨑コーチは、練習日誌に目標と内容だけでなく睡眠と食事の状況まで記載することを勧めています。強度と量を5段階で記録しておけば、2〜3月に効果が出始めたときに「何が効いたのか」を後から特定できます。陸上練習ノートアプリ「TRACK HUB」は、日ごとの練習内容と体感の強度、記録をまとめて残せるように作りました。主観強度を1分で入力しておけば、2月に量を落として質へ切り替える判断が感覚ではなく自分のデータでできます。

よくある質問

冬季練習はいつからいつまでですか?

日本陸連の手引きが示す年間スケジュールの例では、11月が移行期、12〜1月が一般的準備期、2〜3月が専門的準備期です。「追い込む冬季練習」に相当するのは12〜1月で、2月以降は量を減らして質を上げる時期に切り替わります。一括で「冬季練習」と呼ぶチームもありますが、中身は別物と考えてください。

冬季練習でスピードは落ちませんか?

一般的準備期のメニューは意図的に全力疾走を含めない設計です。手引きの短距離メニューはビルドアップ走70〜80%、テンポ走80%で、ポイントも「スピードを上げ過ぎず、正しいフォームでリラックスして走ることを意識しましょう」とされています。速く走る能力を戻すのは専門的準備期(2〜3月)の役割です。冬に感覚が鈍るのは設計の一部で、2月を丸ごとスピードの戻しに使えるかが分かれ目になります。

雨や雪で外に出られない日はどうすればいいですか?

手引き3章は、雨や雪で室内しか使えない場合や練習時間が短い場合に6種目前後のサーキットトレーニングを勧めています。前述の8種目から6つに絞れば屋内で成立し、メディシンボール投げ、縄跳び、動きづくり、補強運動も屋内で可能です。60分の屋内メニューを1つ決めておき、当日に差し替える運用にすると練習が途切れません。

中学生でもウエイトトレーニングをやるべきですか?

手引きが示す中学生向けの一般的準備期メニューに、バーベルを使ったウエイトトレーニングは含まれていません。挙げられているのはサーキット、メディシンボール投げ、バウンディング、ホッピング、縄跳びなど自体重・軽器具の種目です。生物学的年齢の個人差と全面的トレーニングの重要性が強調されていることを踏まえると、まず全面的な補強で土台を作るのが公式資料に沿った順序です。導入する場合は指導者の管理下でフォームの習得から始めてください。

まとめ

  • 種目選びより先に期分けを決める。手引きでは11月が移行期、12〜1月が一般的準備期(低めの質で多くの量)、2〜3月が専門的準備期(量を減らし質を高める)
  • 使える時間は多くない。基準は平日2時間程度・休業日3時間程度・週2日以上の休養で、週16時間未満が望ましいとされる
  • 東京の日の入りは10月1日の17:26から12月1日の16:28まで58分早まる。最も早いのは冬至ではなく11月29日〜12月13日、日の出が最も遅いのは1月上旬
  • 4種目とも、週2日のRestを固定し、低〜中負荷の日を週2日つくり、量の多い内容を休業日に置く骨格
  • 効果が出るのは開始から2〜3か月後。判断は4〜8週間単位で行い、中学校期は生物学的年齢に最大約4年の差があるため走り込み本数を一律にしない

冬季練習は、その日の手応えがいちばん当てにならない時期です。12月と1月の練習が効いているかは、2月から3月にならないと分かりません。だからこそ、何をどれだけやったかを残す価値があります。陸上練習ノートアプリ「TRACK HUB」なら、日々のメニューと主観強度、記録を1分で残して週・月単位で振り返れます。この冬の12週間分のログが、来シーズンの自己ベストの根拠になります。