走り高跳びのコツは、空中で思いきり体を反ることではありません。跳躍で得られる高さの大部分は、助走から踏切までの数秒で決まってしまいます。実際、自己ベスト平均2.08mの選手でも、踏切で足が地面に着いている時間はわずか0.153秒です。この一瞬に何ができるかは、助走のマークをどこに置くかという「数値」で大きく変わります。この記事では日本陸連の指導手引きと査読論文、公式リザルトをもとに、助走レイアウトの決め方から症状別の直し方までをまとめました。

この記事でわかること

  • 助走のJ字レイアウトを数値で設定する手順(曲線の半径・マーク・踏切位置)
  • 「タン・タ・タン」のリズムと内傾で踏切をつくる方法
  • バーに腰が当たる、かかとが引っかかるなど症状別の原因と修正ドリル
  • はさみ跳びのコツと、背面跳びへ安全に移る6ステップ・恐怖心を消す順番
  • 全中・インターハイの表彰台ラインと、試合でパスを使って順位を上げる考え方

走り高跳びのコツは「踏み切るまで」で9割決まる

誰もいない競技場に設置された走高跳のマットとバー

記録は踏み切った瞬間にほぼ確定している

静岡陸上競技協会の指導者養成講習会資料「走高跳の基礎技術」(西島信弘氏)は、「走高跳の跳躍記録は、得られる跳躍高の約90%が助走から踏切までによって決定されます」と明記しています。空中でどれだけ体をひねっても、踏み切った瞬間に得た上向きの速度以上には上がれません。

その踏切がどれほど短いかは、数字で見ると実感できます。戸邉直人氏らが2019年に『体育学研究』へ発表した研究は、自己ベスト平均2.08mの男子走高跳選手7名を計測しました。踏切の接地時間は0.153±0.006秒です。同じ研究で、身体の水平速度は接地時の7.00m/秒から離地時の4.10m/秒まで落ち、代わりに鉛直速度が0.21m/秒から4.16m/秒まで跳ね上がっています。

つまり走り高跳びとは、0.15秒で「前へ進む力」を「上へ上がる力」に架け替える競技です。この架け替えを成立させる準備が助走であり、コツのほとんどはそこに集約されます。

まず押さえる3つの原則

  1. 曲線助走で内傾(体を内側に倒した姿勢)をつくる — 背面跳びの回転は空中でつくるものではなく、傾いた体が起き上がる力から生まれます
  2. 踏切直前に自分から沈み込まない — わざとしゃがみに行くほど接地が長くなり、地面から返ってくる力は逃げていきます
  3. 空中動作は結果でしかない — クリアランス(バーを越える動作)が汚いときは、原因は空中ではなく助走と踏切にあります

中学校学習指導要領解説(保健体育編)も、リズミカルな助走を「スピードよりもリズムを重視した、踏み切りに移りやすい助走」と説明しています。速く走ることが目的ではない点は、公的な指導文書でも一貫しています。

3つの跳び方と、いま自分が選ぶべきもの

日本陸連『中学校部活動における陸上競技指導の手引き』の走高跳は、跳び方として「はさみ跳び」「背面跳び」「ベリーロール」などを挙げ、主流は背面跳びだとしています。ただし「主流だから背面跳び」と短絡すると危険です。必要な用具の条件が跳び方ごとに違います。

跳び方どんな跳び方か選ぶ場面
はさみ跳び斜め後方や正面から助走し、振り上げ足から順にまたぐ「またぎ跳び」や、両足を交差させて大きく開く「正面跳び」(学習指導要領の定義)学校の授業の中心。背面跳びの前段階
ベリーロール腹側をバーに向けて越える跳び方現在の競技会ではほとんど見られない
背面跳び斜め後方から助走し、後半は曲線を描き、身体を仰向けにして越え、背部や肩から着地する(同上)競技の主流。安全条件が整っている場合のみ

はさみ跳びで踏切と振り上げ脚を覚え、条件が整った環境で背面跳びへ移るのが基本です。移行の手順は後半で詳しく扱います。

全国大会の記録から自分の現在地を知る

2026年の全国大会の公式リザルトと日本陸連の日本記録を並べておきます。すべて公式ソースで確認した数値です。

区分男子女子
全日本中学校陸上 2026 優勝2m01 髙田正義(神奈川・西本郷中3年)1m66 キャンベル樹里(福岡・筑後北中3年)
全日本中学校陸上 2026 3位1m951m66(カウントバックで3位)
インターハイ 2026 優勝2m07 佐生凛太郎(埼玉・武南3年)1m76 鴨田るな(神奈川・東海大相模3年)
インターハイ 2026 3位2m041m70
日本中学記録2m10 境田裕之(1986年)1m87 佐藤恵(1981年)
日本高校記録2m25 中谷魁聖(2024年)1m90 佐藤恵(1983年)
日本記録2m35 戸邉直人(2019年・室内)1m96 今井美希(2001年)

出典は第53回全日本中学校陸上競技選手権の公式リザルトと第79回全国高校総体の公式リザルトです。表彰台ラインは年ごとに動くので、目安としてご覧ください。

助走の作り方|J字助走の歩数・曲線の半径・マークの置き方

最初に取り組むべきは助走です。ここが決まらないうちに踏切や空中動作を直しても、毎回条件が変わるので何が良かったのか判断できません。

歩数は「直線3〜6歩+曲線4〜5歩」のJ字が基本

日本陸連の手引きは、走高跳の助走を「3〜6歩の直線と4〜5歩の曲線によるJ字助走が一般的」と示しています。前半をまっすぐ走ってスピードをつくり、後半をカーブさせて内傾をつくる二段構えです。

歩数の総数はおおむね7〜11歩に収まりますが、絶対の正解はありません。中高生に個別指導を行う指導者のJumping T氏は、走高跳の助走を「6〜13.4歩程度」と幅を持たせたうえで、「踏み切った瞬間のスピードで記録は決まる」と書いています。長くすればよいものではなく、最後まで自分でコントロールできる長さが上限です。

始めたばかりなら、まずは5〜7歩の短助走で固めてください。日本陸連の手引きの段階練習でも、はさみ跳び・背面跳びとも5〜7歩の助走から入る設計です。なお、助走をバーのどちら側から始めるかは踏切足で決まります。見つけ方は記事末のよくある質問で扱います。

曲線の半径は5〜7m、直線の方向は3:4:5で決める

「カーブを描いて走る」とだけ言われても、どのくらい曲げるのかがわからないまま毎回違う軌道を走ってしまう。これが助走の安定しない最大の理由です。静岡陸協の資料は、ここを数値で示しています。

  • 曲線の半径は5〜7m程度の円のカーブを利用する
  • J字助走の角度設定には**直角三角形(3:4:5)**を利用して、直線部分の方向を決める
  • 曲線に入ったらバーの20cmほど上に視線を向ける
  • 直線部分の腕振りは少し低めにして重心の安定した助走を引き出し、曲線部分はしっかり振る

半径5〜7mは直径10〜14mの円を描く大きさです。石灰やマーカーで円弧を引いて数本走ると、自分に合う半径が体感でわかります。

マークは「曲線開始の5歩前」に置く

トラック上に弧を描いて並べられた白いマーカーコーン

助走が合わないと悩む選手の多くは、スタート位置しか決めておらず、途中のチェックポイントを持っていません。静岡陸協の資料はマークをこう指示しています。

  • マークは曲線助走が開始される5歩前に置く
  • 助走が不安定な選手の場合は2歩前にも置く
  • 曲線助走開始マークの1m先にもマークを置いて練習すると、カーブがつくりやすい

直線部分が3〜4歩と短い選手は、5歩前のマークがスタート位置より手前になります。その場合は2歩前のマークと、開始マークの1m先のマークだけを使ってください。

マークを固定してから微調整する考え方は、走り幅跳びと同じです。歩数と距離の合わせ方は走り幅跳びの助走の合わせ方で解説しています。

踏切位置は支柱の鉛直方向に男子70cm・女子50cm以上

上位記事がほとんど触れていないのに記録を左右するのが踏切位置です。静岡陸協の資料は「踏切位置はスタンドの鉛直方向に男子で70cm以上、女子で50cm以上は欲しい」としています。原典の表記は「スタンドの鉛直方向」で、支柱を通る垂直線=バーの面から助走路側へどれだけ離れて踏み切るかの目安です。バーに沿った左右方向ではありません。

バーに近すぎる位置で踏み切ると、上昇の途中でバーに到達し、腰や背中が当たります。離れすぎると、頂点を過ぎて落ちながら越えることになり、これも当たります。

同資料は、レイアウト(バーの上での姿勢)を正しくつくることで「バーの高さよりも最大で重心高マイナス8cm」でクリアできるとも述べています。跳躍力が8cm上がる話ではなく、同じ跳躍力でも重心がバーより8cm低い位置を通れるという効率の話です。

踏切から着地まで|「タン・タ・タン」のリズムと内傾のつくり方

踏切2歩前のリズムを覚える

日本陸連の手引きは、踏切準備を「踏み切り2歩前から緩やかに沈み込み(重心を下げ)、踏み切りは膝を伸ばし、身体を一直線にして踏み切る」としています。そのリズムは「タン・タ・タン」。2歩前から踏切までの3歩でテンポをつくります。

注意したいのは、沈み込みを直前に自分でつくりに行かないことです。静岡陸協の資料は「1歩前の重心の沈み込み動作は意識して作るべきではない」とし、内傾によって自然に生まれる沈み込みを模倣動作で身体に覚えさせるべきだと述べています。2歩前からの緩やかな重心の下降は準備として意識してよい一方、直前でわざとしゃがみに行くと接地が長くなり、力が逃げます。

リズムで動作をつくる考え方は、ハードル走のコツで解説している3歩のリズムづくりとも共通します。

内傾はどのくらい傾けるのか

「体を内側に倒す」も、数値を知ると目標が明確になります。2007年大阪世界選手権のバイオメカニクス分析(阿江通良氏ら、日本陸連『陸上競技研究紀要』2008年)は、男子走高跳上位入賞者の踏切足接地時の内傾角を次のように報告しています。

  • 2m35で優勝したドナルド・トーマス選手(バハマ): 約8.1〜8.2度
  • 1991年東京世界選手権の分析対象選手の平均: 3.2±3.1度

世界トップは平均の2倍以上の角度で内側に傾いて踏み切っていたことになります。同研究は先行研究を引きながら、踏切脚を内傾させると股関節の外転筋が効果的に使え、大きな外転トルクが鉛直方向の地面反力を高めると説明しています。「傾ける」は格好ではなく、力を出すための姿勢です。

同じ研究では、トーマス選手の助走速度は踏切1歩前で7.73m/秒、踏切足接地時で7.87m/秒と、わずかに加速して踏切に入っていました。ただしこれは世界王者の数値です。日本陸連の手引きは中学生向けに「踏み切りに向けて余裕がもてるスピードで」としています。まずは踏み切れるスピードの上限を見つけるのが先です。

膝は「自分から曲げにいかない」

日本陸連の手引きは「踏み切り脚の足先は着地の方向に向け、膝は曲げず、短い接地時間で踏み切る」としています。ただし、実際の踏切で膝がまったく曲がらないわけではありません。

阿江氏らの研究では、トーマス選手の踏切局面における膝関節の最小角は133度でした。180度が完全伸展ですから、47度ほど曲がっている計算です。1991年東京大会の平均も132.9度とほぼ同じでした。世界王者でも膝は大きく曲がっています。それでも記録が出るのは、曲げに行っているのではなく、衝撃に耐えた結果として曲がり、すぐ伸び返しているからです。「膝を曲げない」は、自分から潰しに行かないという意味で理解してください。

腕とリード脚を「上げきる」だけで重心は上がる

日本陸連の手引きは、振り上げ脚を「太ももが地面とほぼ平行になるまで」上げ、「腕は踏み切りに合わせてタイミングよく振り上げることで、上昇力がより高まります」としています。あわせて「身体は、踏み切りが完了するまで直立を保ちます」とも。踏切の途中で先に上体を倒すと、上向きの力が抜けます。

静岡陸協の資料は、この効果を数値で示しています。

動作離地時の重心高への効果
両手を肩以上に上げる約4cm UP
リード脚を腰の高さまで上げる約8cm UP
脚を伸ばして両手・リード脚を上げる約10cm UP

踏み切る力が同じでも、腕と脚をどこまで上げきるかで、これだけの差が生まれます。腕の使い方は、助走の直線部分では低めに抑え、曲線に入ったらしっかり振り、踏切で肩より上まで上げきる——という流れで整理すると迷いません。

空中動作と着地は「反ってから、おへそを見る」

クリアランスは、反りっぱなしにしないことが要点です。日本陸連の手引きは「身体がしっかり上がったら、背面を反り、バーを越えます。脚と頭を下げることにより腰〜臀部が上に上がり、きれいなクリアランスができます」と説明し、続けてこう書いています。

空中で身体が落ち始めたら、あごを引いて、おへそを見るようにします。そうすると、脚が自然に上がり、バーをクリアしやすくなります。

高等学校学習指導要領解説(保健体育編)も、背面跳びの例示として「バーの上で上体を反らせるクリアーの姿勢をとった後、腹側に体を曲げて、背中でマットに着地すること」と記しています。反る局面とたたむ局面が分かれているのがポイントです。

着地の安全については、日本陸連の手引きが「あごを引いたまま、背中からマットに安全に着地」すること、「膝が顔に当たることがあるので、空中で膝を少し開いておくとよい」ことを挙げています。この2つは技術ではなく安全管理なので、初日から徹底してください。

症状別・走り高跳びの直し方|8パターンの逆引き診断表

多くの解説は「正しいやり方」を順に説明します。ですが困っている選手が知りたいのは「いま起きている失敗の原因」です。原因は複数あり得るので、上から順に試してください。

症状よくある原因まず試す修正補助ドリル
バーに腰・お尻が当たる踏切位置がバーに近すぎる/反りが早すぎる踏切位置を支柱の鉛直方向に男子70cm・女子50cm以上へ/踏切が完了するまで身体は直立を保つ立ち背面跳び
落ち際にかかとやふくらはぎが引っかかる反ったまま着地に入っている身体が落ち始めたらあごを引き、おへそを見る(脚が自然に上がる)マット上で反る→たたむの反復
バーから離れたところを跳んでしまう曲線が膨らみ、外へ逃げながら踏み切っているカーブに入る足のつま先を内側に向ける半径5〜7mの円周走
バーに突っ込む、体が流れる助走が速すぎて踏切で受け止められていない「踏み切りに余裕がもてるスピード」まで落とす5〜7歩の短助走で反復
踏切で膝が潰れる接地が長い/自分から膝を曲げて跳ぼうとしている身体を一直線にして、短い接地で踏み切るリバウンドジャンプ、ミニハードル
助走が毎回合わない途中のチェックポイントがない曲線開始の5歩前にマークを固定(不安定なら2歩前にも)助走のみを3本連続で
カーブでストライドが詰まる遠心力に負けて歩幅を縮めているカーブでもストライドを狭めずに走り切る円周走でのテンポ走
記録が頭打ち、高さが出ない踏切そのものの力発揮が不足リバウンドジャンプで踏切能力を数値化して弱点を特定後述の補強メニュー

「カーブに入る足のつま先を内側に向ける」は、インターハイ出場経験を持つ鈴木義啓氏がYouTubeで示すキューです。同氏は「外側に足を着きがちですが、カーブに入る足のつま先を内側に向ける事により、スムーズにカーブに入り、遠心力を得る事ができます」と説明しています。

「カーブでもストライドを狭めない」は、前述のJumping T氏が挙げるコツです。同氏は助走の速度曲線を3タイプに分け、最初から全力疾走して維持する型は記録が出にくいとしています。

はさみ跳びから背面跳びへ|6ステップと恐怖心を消す順番

はさみ跳びのコツは「助走の延長線上に踏み切る」

背面跳びの前に、はさみ跳びで踏切そのものを覚えます。日本陸連の手引きが示すポイントは4つです。

  • バーに対して斜め45度から直線助走で行う
  • 助走の延長線上に足を向けて踏み切る(踏切足の向きを助走の流れから変えない)
  • 助走からジャンプへと加速していく
  • 助走は5〜7歩

つまずきやすいのは2つ目です。バーを越えたい気持ちが先に出ると、踏切の瞬間に足先だけバー側へ向けてしまい、力が横に逃げます。振り上げ脚は、背面跳びと同じく太ももが地面とほぼ平行になるまで上げてください。

学校の授業で背面跳びを扱える条件

中学校学習指導要領解説(保健体育編)は、背面跳びについて次のように定めています。

全ての生徒を対象とした学習では、中学生の技能レベル、器具や用具等の面から危険な場合もあると考えられる。したがって、指導に際しては、個々の生徒の技能、器具や用具等の安全性などの条件が十分に整っており、さらに生徒が安全を考慮した段階的な学び方を身に付けている場合に限って実施することとする。

高等学校学習指導要領解説にもほぼ同じ条項があります。部活で背面跳びに進む場合も、条件が揃っていることと段階を踏むことが前提です。

なお中学校学習指導要領解説は、背面跳びの例示として「踏み切り前の3〜5歩で弧を描くように走り、体を内側に倒す姿勢を取るようにして踏み切りに移ること」と記しています。曲線助走と内傾は、公的な指導文書でも同じ言葉で説明される共通の基礎です。

日本陸連の段階練習6ステップ

日本陸連の手引きは、走高跳の練習手段を次の6段階で示しています。順番を飛ばさないことが安全につながります。

  1. はさみ跳び — バーに対して斜め45度から直線助走。助走は5〜7歩
  2. スネーク走 — コーンの間隔4〜5m、左右のオフセット1.5mでジグザグに走り、曲線走に慣れる
  3. 曲線からのはさみ跳び — 直線ではなくカーブから跳ぶ
  4. 立ち背面跳び — その場から背中でマットへ。バーと着地場所の安全を確保し、反りを早くしない
  5. 膝を高くした助走からの背面跳び — 5〜7歩の短助走で
  6. 全体の流れ — 助走から着地までを通す

見落とされがちなのがステップ2です。曲線走に慣れないままバーを跳ぼうとすると、跳ぶことに気を取られて曲線がつくれません。示された数値のままコーンを置いて走り込んでください。

恐怖心は「倒れ込み」から消していく

背面跳びで最も多い離脱理由は、技術ではなく怖さです。杉浦澄美氏らが2023年に『コーチング学研究』へ発表した、日本への背面跳の移入過程を追った研究にも、当時の座談会で競技者が「あんまり跳ばないんですよこわいから」と語った記録が残っています。

静岡陸協の資料は、恐怖心の排除を練習の一項目として置き、「後方に倒れこむ」ことを挙げています。レイアウト練習として「背中からマットに倒れこみ」「立ち背面(その場・助走付き)」を挙げ、特に女子には大切だとしています。順番にすると次の通りです。

  1. マットに背中から倒れ込む(跳ばない。背中で受ける感覚に慣れる)
  2. その場からの立ち背面跳び(バーはかけない、または低いゴムひもで)
  3. 助走をつけた立ち背面跳び
  4. 5〜7歩の短助走から背面跳び(うち曲線は3〜5歩)

1と2は、跳躍ではなく「怖くない」という体験を積むための段階です。ここを1日で終わらせようとしないでください。

マットの規定と、マットがない場所でできること

日本陸連競技規則のTR27.10は、走高跳の着地場所について国内では幅5m×奥行3m以上、マットを用いる場合は幅6m以上×奥行3m以上と定めています。この条件を満たさない場所で背面跳びを行うのは危険です。マットのない環境では跳躍練習そのものを行わず、次の要素練習に切り替えてください。

  • スネーク走・円周走(曲線走と内傾の習得)
  • 助走のみの反復(マークの精度を上げる)
  • リバウンドジャンプ、ミニハードルなどの踏切系ドリル

マットの条件が整うまでは、記録の大部分を占める助走と踏切を磨くほうが近道です。

あと1cmを取りにいく|補強トレーニングと試合でのルール活用

リバウンドジャンプで踏切能力を数値化する

跳躍練習だけでは、自分の踏切が良くなっているのか判断しづらいものです。ここで使えるのがリバウンドジャンプ(RJ)テスト。跳躍高を接地時間で割ったRJ-indexという指標で、短い接地で高く跳ぶ能力を測ります。

図子あまね氏らが2023年に『体育学研究』へ発表した研究では、男子走高跳選手14名を対象に、RJテストの結果と競技記録の関係が調べられました。

  • 走高跳の競技記録とRJ-index・跳躍高の間に有意な相関があった
  • 記録上位群は下位群より、RJ-index・跳躍高・足関節の負のパワー・膝関節の短縮性トルク・膝関節の正のパワーが有意に高かった
  • 一方、接地時間には上位群と下位群で差がなかった

接地時間に差がないのに跳躍高に差がある。差がつくのは、同じ接地時間でどれだけ高く跳べるかです。連続RJの跳躍高と接地時間を月1回測って記録すると、補強の効果が見える形になります。

補強は「量より質」。1本ずつ短く鋭く

2m35の日本記録保持者である戸邉直人選手は、月刊陸上競技のYouTubeチャンネルで自身のジャンプトレーニングを解説しています。動画の概要欄に示された狙いは、**「接地時間を短く」「量より質」「簡単なものから」**の3点です。

走高跳の踏切は0.15秒程度の勝負です。長く力を出すタイプの練習ばかりでは、この短い時間帯の能力は伸びにくいと考えられます。回数より、1本ずつ短く鋭く跳ぶことです。

では何を鍛えるのか。戸邉氏らの2019年の研究は、接地時の衝撃を受け止めるのは股関節の伸展筋群で、身体を上方へ動かすのは股関節の外転筋群・膝関節の伸展筋群・足関節の底屈筋群だと結論づけています。離地時の鉛直速度と有意な正相関を示したのは、股関節外転のトルクパワー(r=0.793)と関節仕事(r=0.762)でした。曲線助走で内傾するのは、この外転筋を使える姿勢をつくるためでもあります。

跳躍練習のない日に組む補強の一例です(本数は目安なので、指導者と相談して調整してください)。

種目量の目安ねらい
バウンディング20m×4本片脚での踏切、接地の短さ
片脚ボックスジャンプ(30cm程度)左右5回×3セット片脚の伸展パワー(RJ-indexの跳躍高側)
ミニハードルジャンプ5台×5本接地時間を短く保つ
ミニバンドのサイドステップ/サイドプランクの脚上げ左右15回×2セット股関節外転

いずれも、接地を短く保てなくなった時点で終了します。跳躍系の補強は着地衝撃が大きいので、アスファルトなど硬い路面は避けてください。すねや踏切足の痛みが数日以上続く場合は練習を中断し、専門家に相談を。初期対応はシンスプリントの治し方にまとめています。オフシーズンの組み方は陸上の冬季練習メニューを参考にしてください。

試合はパスの使い方で順位が変わる

同じ記録でも順位が変わるのが、走高跳と棒高跳の特徴です。日本陸連競技規則を押さえておくだけで、1cm分の価値が出ます。

場面ルール上できること根拠
自己ベストより低い高さ告知されたどの高さから始めてもよく、以降どの高さを跳んでもよい(パスできる)TR26.2
ある高さで1回目・2回目を失敗残りの試技をパスして次の高さに回すことができるTR26.2
ただし高さをまたいでも3回続けて失敗すれば、その時点で競技終了TR26.2
同記録で並んだとき最後に越えた高さでの試技数が少ない者が上位。なお同じなら全試技の無効試技数が少ない者が上位TR26.8
バーの上げ幅走高跳では2cmより少ない上げ方はできず、上げ幅を増やすこともできないTR26.4
試技時間残り4人以上なら1分、2〜3人なら1分30秒、1人なら3分、連続試技は2分TR25.17

カウントバックでは「最後に越えた高さでの試技数」が先に見られます。序盤の低い高さで1回目を失敗したら、3本使い切るより次に回したほうが有利になる場面があります。ただし連続3回失敗で終了なので、パスを重ねるほど後がなくなります。自己ベスト付近まで何本残せるかを試合前に決めておきましょう。

跳躍種目のスパイクは、ピン配置やソールの硬さが短距離用と異なります。1足目の選び方は陸上スパイクの選び方にまとめています。

よくある質問

走り高跳びの踏切足はどちらの足ですか?

利き足=踏切足とは限りません。背面跳びは曲線助走の外側にあたる足で踏み切るため、助走のカーブは踏切足と反対の方向へ曲がっていきます。自分がどちらかを確かめる一番早い方法は、その場からの立ち背面跳びを左右の足で試すことです。跳びやすい、怖くないと感じたほうを踏切足にし、その足が曲線の外側になるように助走のスタート位置を決めてください。一度決めたら、途中で変えずに積み上げるほうが助走も安定します。

背面跳びが怖くて跳べません。どうすればいいですか?

跳ぶ練習の前に、跳ばない練習を挟んでください。倒れ込み→立ち背面跳び→助走つきの立ち背面→短助走、という順番です。静岡陸協の指導資料も「後方に倒れこむ(恐怖心の排除)」を練習項目として挙げています。怖さは根性ではなく、安全な体験の回数で消えていきます。

マットがなくても背面跳びの練習はできますか?

跳躍そのものは行わないでください。競技規則TR27.10は着地場所を国内で幅5m×奥行3m以上(マット使用時は幅6m以上×奥行3m以上)と定めています。学習指導要領解説も、背面跳びの実施を安全条件が整った場合に限っています。スネーク走・円周走・助走の反復・踏切ドリルに切り替えましょう。

中学生は何センチ跳べればすごいのですか?

2026年の全日本中学校陸上競技選手権は、男子の優勝2m01・3位1m95、女子は優勝と3位がともに1m66(カウントバックで決定)でした。全国の表彰台はこの水準です。日本中学記録は男子2m10・女子1m87で、全国トップと記録の壁がまだ大きい種目でもあります。都道府県大会のボーダーは地域と年で差が大きく、公式に一覧化されたものが確認できないため、この記事では数値を挙げていません。

まとめ

走り高跳びのコツを整理します。

  • 跳躍高の約9割は助走から踏切までで決まる。空中動作は結果でしかない
  • 助走は直線3〜6歩+曲線4〜5歩のJ字。曲線の半径は5〜7m、マークは曲線開始の5歩前に固定する
  • 踏切位置は支柱の鉛直方向に男子70cm・女子50cm以上。バー上の姿勢しだいで重心はバーより8cm低く通せる
  • 踏切は「タン・タ・タン」のリズムで、自分から膝を曲げにいかず短い接地で
  • 両手を肩以上で約4cm、リード脚を腰の高さで約8cm、脚を伸ばして両方を上げると約10cm、離地時の重心が上がる
  • 失敗は症状から逆引きする。腰が当たるなら踏切位置、かかとが引っかかるならあごを引いておへそを見る
  • 背面跳びは倒れ込み→立ち背面→短助走の順に。マットの条件が整わない場所では跳ばない
  • 試合はパスとカウントバックの理解で順位が変わる。連続3回失敗で終了という制約を忘れない

走り高跳びは、1cm刻みで結果が出る種目です。だからこそ、助走のマーク位置、踏切位置、RJの数値、跳んだ高さと成功・失敗の記録を残しておくと、次に何を変えるべきかがはっきりします。陸上練習ノートアプリ「TRACK HUB」なら、練習メニューと記録をその場で残して、月ごとの変化をグラフで振り返れます。今日決めた助走レイアウトの数値から記録してみてください。