陸上の補食は、日本陸連の資料の言葉を借りれば「朝食・昼食・夕食だけではとりきれなかったエネルギー・栄養素を補うための食事」です。置く場所は大きく2か所——練習の前後と、試合当日の招集時刻から逆算した時間帯。高校の陸上競技部で「練習後におにぎり1個」を12週間続けた研究も日本で行われています。公的基準と査読論文、食品成分表、実際の大会要項の招集時刻をもとに組み立てます。

この記事でわかること

  • 補食を「いつ」「何を」「どれだけ」置くかの早見表(朝練前・練習前・練習後・試合当日)
  • 日本人の食事摂取基準の数値を陸上部員がどう使うか(使ってはいけない使い方)
  • 高校陸上部で行われた12週間の研究でわかったこと(と、わからなかったこと)
  • 購買・コンビニで「何を何個」買えば体重に見合う糖質量になるかの組み合わせ表
  • 試合当日は招集完了時刻から何時間逆算し、朝食をどう割るか(午前・午後の3パターンの時間割)

競技場を背景におにぎり・バナナ・牛乳・水筒を並べた写真

結論|補食は「練習の前後」と「試合当日の逆算」で置く

補食は気合いではなく、時間割で決めるものです。

場面タイミング中身の考え方
練習前開始2〜3時間前(JISS)炭水化物中心。バナナ、おにぎり、パン、100%ジュースなど
朝練前2〜3時間前は取れない。起床後〜出発前に少量液状から。ジュース・牛乳→バナナ・カステラ
練習後終了後なるべく早く(研究では20分以内)炭水化物+たんぱく質。おにぎり+牛乳など
試合当日の食事試合の3〜4時間前まで(日本陸連)。陸上は招集完了時刻から引く主食をしっかり、おかずは少なめで消化の良いもの
試合直前招集所へ向かう前消化が速く少量でエネルギーになるもの
予選と決勝の間1時間あたり体重1kg×1〜1.2gの糖質(日本陸連)間隔が短いほど液状・少量に寄せる

数値の出どころは分けて書きます。「2〜3時間前」はJISS、「3〜4時間前」とレース間の糖質量は日本陸連の記述。本記事が足す「招集完了時刻から引く」だけが、公的資料にない編集部の整理です。

本記事は公的機関の資料と査読を経た研究にもとづく一般的な情報です。アレルギー・持病・体調に不安がある場合は、医師や管理栄養士に相談してください。

陸上部の食事量|推定エネルギー必要量の土台には運動選手のデータが入っていない

補食の前に、そもそも自分がどれだけ食べる必要があるのかを押さえます。1日に何をどれだけ走るかで消費側は変わるので、練習量の設計は800mの練習メニューとレースの組み立てのような種目別記事にゆずり、ここでは「食べる側」の数字だけを見ます。

基準値は出せる。ただし「目標値」ではない

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書は、推定エネルギー必要量を「体重1kg当たりの基礎代謝基準値×参照体重×身体活動レベル基準値」で定めています(小児はこれに成長のためのエネルギー蓄積量を足す)。参考表2の身体活動レベル「高い」は次のとおりです。

12〜14歳15〜17歳
男子2,900kcal/日3,150kcal/日
女子2,700kcal/日2,550kcal/日

参照体重(15〜17歳男子59.7kgなど)が前提の値ですが、参考表1には体重1kg当たりの値もあり、レベル「高い」で15〜17歳が男52.7・女49.3kcal/kg/日。体重55kgの高1男子なら55×52.7=約2,900kcalです。

ここで報告書の最重要の注意書きを押さえてください。4-5「活用上の注意(まとめ)」は、**「エネルギーの過不足の判定並びに管理には、推定エネルギー必要量は用いず、体重の変化(中略)を用いることが望ましい」**と明記しています。この数字は、個人が「足りているか」を判定する物差しではありません。

土台になるデータからは運動選手が除かれている

もうひとつ、報告書は元データについてこう書いています。基礎代謝量の報告例をまとめた図9の注記に**「次の研究は除外した:有疾患者、運動選手、……」、小児の身体活動レベルにも「運動選手のデータを除き対象者数で重み付けの平均をとった」。しかも「高い」に「スポーツ等余暇における活発な運動習慣を持っている場合」という説明が付くのは成人の表5**で、小児(6〜17歳)は「『ふつう』から0.20だけ増減させた値」と定めているだけです。

ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)のスポーツ栄養のページも、「日常生活で消費される分にプラスして、トレーニングのためのエネルギー量と栄養素量をより多くとることが必要」と説明しています。3食を普通に食べているのに足りない——補食が要る理由は、突き詰めるとこの一点です。

日本陸連医事委員会の「アスリートのエネルギー不足予防10か条」(2018年)も、第7条で**「練習で消費するエネルギーは食事と補食から過不足なく摂取できるよう心がけましょう」と補食を名指しします。前文はエネルギー不足が骨密度低下・けがの多発・貧血・免疫低下・月経異常を招くとしたうえで、「女子選手だけでなく、男子選手でも、どの種目でも、どの年齢層でも注意が必要です」**と書いています。

練習前後の補食のタイミング|1日に3か所、練習後は「なるべく早く」

補食を置く場所は練習後だけではありません。前→後の順で見ます。

補食のタイミングは1日に3つある

日本スポーツ振興センターの「成長期女性アスリート指導者のためのハンドブック」「8.栄養」の「6 補食」は、1日のうちに補食を置く場所を3つ示しています(図3)。

いつ条件ねらい中身
補食1朝練の前朝練をする場合身体を目覚めさせる/空腹で練習しない炭水化物と水分
補食2午後の練習前昼食から練習まで時間が空く時空腹で練習しない/筋タンパク質の分解を防ぐ炭水化物と水分
補食3練習後夕食まで時間が空く時すみやかに栄養補給する炭水化物とたんぱく質と水分

朝練がある日は、その前にも1回置く——これが同章の考え方です。血糖と筋肉・肝臓のグリコーゲンは**「不足すると空腹感・疲労感をおこしやすく、集中力が落ちるなどパフォーマンス低下の一因となり、運動時の体タンパク質の分解も多くなります」**。

タイミングは**「基本的にトレーニング開始2〜3時間前、トレーニング終了後なるべく早くに食事(補食)がとれるようにスケジュールを組み立てましょう」。練習前は開始2〜3時間前が原則で、直前に詰め込むものではありません。ただし同章は「トレーニング後の補食は夕食に支障をきたさない程度にしましょう」とも書いています。同ハンドブックは試合前について「食べ慣れない食品や料理、調理法は避ける」**ともしており、練習前に合わなかったものは、試合の日にも合いません。

朝練前だけは「2〜3時間前」が取れない

ここで現実とぶつかります。6時開始の朝練で「開始2〜3時間前」を守ると3〜4時起き。守れる人はまずいません。だからハンドブックの補食1は、中身を**「炭水化物と水分」とだけ定め、ねらいも「身体を目覚めさせる」「空腹でトレーニングをしない」に絞っています。量ではなく目を覚まさせる一口**が目的です。

以下は編集部の整理です(公的資料にこの時間割はありません)。起床直後に100%ジュースか牛乳を200mL、家を出る前にバナナ1本かカステラ1切れ(後掲の日本陸連の目安で糖質約23g・約25g)。練習後の1回分ほどは要りません。補食1と補食3ではねらいが違うからです。

練習後の補食|高校陸上部での12週間の研究が示したこと

武庫川女子大学の植杉優一氏・内藤義彦氏による「高校生陸上競技選手に対するおにぎりによる補食の有用性」(日本スポーツ栄養研究誌 vol.14, 50-58, 2021)は、日本の高校陸上競技部を対象にした介入研究です。設計は次のとおりでした。

項目内容
対象・割付大阪府立高校の陸上競技部 男女50名(長距離20・短距離16・跳躍8・投てき6)を学年・性別・種目で層化無作為に2群へ
介入介入群のみ、クラブ活動終了後20分以内におにぎり1個を12週間
おにぎり精白米・食塩のみ、約100g=168kcal/たんぱく質2.5g/脂質0.3g/炭水化物37.1g
評価食事調査、身体組成、自転車エルゴメータでの換気性作業閾値(VT)と推定最大酸素摂取量
解析対象36名(男子24・女子12)

練習は平日が約2時間、日祝が約4時間。どこの陸上部にもある条件です。

何が変わったか

指標(男子)介入群 0週→12週コントロール群 0週→12週
VT到達時の負荷量140→174W(+34)167→182W(+15)
VT到達時の酸素摂取量1,817→2,167mL/分(+350)2,122→2,147mL/分(+26)

負荷量・酸素摂取量とも群間の変化量の差が統計的に有意(いずれもp<0.05)で、しかも体重の増加に依存しない改善でした。論文は「おにぎりの補食は、競技パフォーマンスの向上に寄与する可能性が示された」と結論しています。

一方で、正確に読むべき点が3つあります。

  1. 女子では群間に有意な差は出ていません。論文は**「両群においてVT到達時の心拍数のみに有意な上昇を認められた(p<0.05)が、両群間の変化量に有意な差は認められず、交互作用も確認されなかった」**としています(上昇は介入群だけの現象ではありません)。限界として離脱者が3割近いことも挙げています
  2. 1日の総摂取エネルギー量は増えていません。論文は「補食によって増加した米飯量にあわせて日常の食事を調整した」と考察します。補食を足すなら3食を減らさないのが前提です
  3. 論文自身が「実際に筋グリコーゲン量を測定しておらず、断定することはできない」と明記しています

「食べられない」も研究に記録されている

この論文が現場的なのは、うまくいかなかった理由まで書いているところです。脱落者が3割近くおり、その多くの理由が「味のないおにぎりが運動後に食べにくい」「夕食が食べられなくなる」「肥満に繋がる」でした。論文は、現場では具材を工夫するのが一般的だとし、飽きさせない工夫の必要性を挙げます。塩むすびを義務化しても続きません。

練習後のトラック脇に置かれたスポーツバッグと水筒の写真

何を食べるか|「基本的な食事の形」に足りない分を補う

補食は3食の不足を埋めるもの。土台の型を先に押さえます。

1食の型は5つそろえる

前述のJISSハンドブックは、アスリートの「基本的な食事の形」として①主食 ②主菜(肉・魚介・卵・大豆製品)③副菜(野菜・いも・きのこ・海藻)④牛乳・乳製品 ⑤果物の5つを挙げ、食習慣の4つ目に**「トレーニングスケジュールに合わせて食事時間と内容を考える」**を置いています。これがまさに補食の考え方です。

補食の中身は、「トレーニング前にはグリコーゲンの原料である炭水化物を、トレーニング後は、すみやかに炭水化物とたんぱく質をとるようにしましょう」。食品例として練習前にバナナ・おにぎり・パン・カステラ・100%ジュース・団子、練習後に肉まん・牛乳・ヨーグルト・チーズなどが挙がります。前章の論文が米を選んだ理由も、米飯のGI値(食後血糖値の上昇度)が84〜88と高いためです。

土台の作り方は、日本陸連もSNSで発信しています。

日本陸上競技連盟@jaaf_official

【#アスリートレシピ】#JAAF #スポーツ栄養 #陸マガ #陸上選手の食事 #陸上選手の栄養補給 今回は「カラダづくりのための栄養補給とタイミング」(2023年3月号掲載) 筋肉量を増やすためには、毎食しっかりとたんぱく質をとることが大切です💪…

「毎食しっかりと」——たんぱく質を補食1回で取り返すのではなく、5つの型がそろった食事を1日3回。補食はそのうえに足すものです。

日本陸連が出している「目的別」の補食例

そのものずばりの資料が、日本陸連 医事委員会スポーツ栄養部の「補食について」です。

目的補食例(JAAF 医事委員会スポーツ栄養部)
からだを大きくする・持久系トレーニング後(エネルギー補給)おにぎり、サンドイッチ、カステラ、餅、団子、焼き芋、バナナなどのフルーツ、ナッツ、エネルギーゼリー
からだづくり・筋力系トレーニング後(カルシウム・たんぱく質)牛乳、ヨーグルト、チーズ、肉まん、アーモンド小魚、フランクフルト、焼き鳥、ゆで卵
疲労回復・調子を整える(ビタミンなど)果物、100%果汁ジュース、野菜スティック、果物ゼリー

選び方の原則も明快です。「『おやつ』ではなく、『食事』に近いものを選びましょう。スナック菓子やチョコレートではなく、おにぎりやパンなど目的に合わせて摂取することが大切です」。

いつ食べるかの例も3つ挙がっています。「練習が終わったら、すぐに食べる」「帰宅後、夕飯まで時間がある場合に食べる」「車やバスの中など、移動中に食べる」。朝から持ち歩いて夕方に食べる場合は、パンや栄養補助食品など傷みにくく保存しやすいものを選ぶように、という注意も添えられています。部活直後に食べる時間がないなら移動中でよい——統括団体がそう書いているわけです。

買える補食を成分表の実数で比べる

「炭水化物中心」と言われても、棚の前では選べません。上の2つのリストの食品を、文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」の値(可食部100g当たり/同省の食品成分データベースで確認)で並べます。

食品(成分表の名称)エネルギー炭水化物たんぱく質脂質
ごはん(水稲めし・精白米)156kcal37.1g2.5g0.3g
あんパン(薄皮・こしあん入り)256kcal51.9g6.6g3.5g
揚げパン369kcal43.5g8.7g18.7g
カステラ313kcal61.8g7.1g5.0g
焼き芋(さつまいも・皮なし)151kcal39.0g1.4g0.2g
肉まん(中華まんじゅう)242kcal43.4g10.0g5.1g
バナナ(生)93kcal22.5g1.1g0.2g
普通牛乳61kcal4.8g3.3g3.8g
プロセスチーズ313kcal1.3g22.7g26.0g
ゆで卵(鶏卵・全卵)134kcal0.3g12.5g10.4g
オレンジジュース(濃縮還元)46kcal10.7g0.7g0.1g

棚の前で使える読み方は2つ。

  1. 「同じ菓子パン」でも中身は別物。あんパンの脂質3.5gに対し、揚げパンは18.7g——5倍以上です。菓子パンをひとくくりに避けず、揚げてあるかどうかで分けるのが実用的です
  2. たんぱく質を足す係は乳製品と卵。炭水化物系は1〜10g台ですが、プロセスチーズは22.7g、ゆで卵は12.5g。JAAF資料が「筋力系」に牛乳・チーズ・ゆで卵を並べるのは、この差で説明がつきます

前章の論文のおにぎり(168kcal・炭水化物37.1g)は、三大栄養素が上の「ごはん」と一致し、エネルギーだけ違います。成分表は版によってエネルギーの算出方法が変わっており、増補2023年の値が156kcalです。あんパン・カステラ・肉まんは原典では推計値です。

量の目安|体重1kg当たり1〜1.2gを「1品あたり」に翻訳する

前章の論文の考察に、実務でいちばん使える数字があります。運動終了後の糖質摂取量として先行研究が推奨するのは体重1kg当たり1〜1.2gで、おにぎり1.5〜2個に相当する、というもの。一方、対象者のおにぎりによる糖質摂取量は体重1kg当たり0.5〜0.8gで、男子は推奨量の半分程度の者が多かった。おにぎり1個では足りていなかったわけです。

上の成分表の値で重さに換算すると(編集部が計算。糖質は炭水化物から食物繊維を引いた分なので、ごはんの食物繊維1.5gを差し引いています)、体重50kgなら糖質50〜60g=ごはん約140〜170g、60kgなら60〜72g=約170〜200gです。

とはいえ購買で必要なのは「ごはん170g」ではなく「何を何個」です。日本陸連の「試合時の食事のポイント!」は、補食1回あたりの糖質量を品目ごとに示しています。

品目(1回分)糖質の目安(日本陸連)
エネルギーゼリー約45g
アンパン1個約42g
おにぎり1個約40g
カステラ1切れ約25g
バナナ1本約23g
オレンジジュース約22g

足し合わせると、買う組み合わせが体重から決まります(編集部が上の目安値を加算。「合う体重」は合計÷1.2〜合計÷1.0)。

組み合わせ糖質の合計合う体重の目安
カステラ1切れ+バナナ1本約48g40〜48kg
おにぎり1個+バナナ1本約63g53〜63kg
アンパン1個+オレンジジュース約64g53〜64kg
おにぎり2個約80g67〜80kg
おにぎり1個+エネルギーゼリー約85g71〜85kg

おにぎり1個だけでは、体重33〜40kgの人の目安にしかなりません。「もう1品足す」が結論です。たんぱく質も足したい練習後は牛乳を重ねます。成分表の値(100g当たり3.3g)なら200gで約6.6gの上乗せです。

試合の前日と当日|食事は「招集完了時刻」から逆算する

前日にやること・やらないこと

前日については、JISSハンドブック「8.栄養」に**「3)試合前・調整期の食事」という専用の項があります。冒頭は「試合前の食事で大切なことのひとつに『安全性』があります」。緊張すると消化吸収能力が抑制される可能性があり**、便秘や下痢などの胃腸系の障害が見られるため、衛生面や体調に配慮した食事が必要になる、という理由づけです。そのうえで4つのポイントが示されています。

ポイント具体的な指示
①普段どおりの食事ができる環境を整える食べ慣れない食品や料理、調理法は避け、消化のよい食べ慣れた食事を中心に
②安全性の高い食品、料理を選ぶ刺身や生卵などの生もの、生焼けの肉などは避ける。時間がたった料理、保存状態が悪い料理も食べない
③体重・体調管理のための食事を心がける体重を落とす必要がある人は揚げ物や脂質の多い食品を控える。食物繊維が多くガスを発生させやすい食品(そば、さつまいも、モロヘイヤ、ごぼう、えのき、ひじきなど)はとりすぎない
④炭水化物を中心とした食事にするエネルギーを蓄えるため、炭水化物(ご飯、もち、パン、麺類)を中心に

③の「ガスを発生させやすい食品」は、一般的な「試合前の食事」記事ではまず見かけない指摘です。そばは消化に良さそうに見えて、前日はとりすぎないようにと注意されている。焼き芋は練習後の補食としては優秀でも、前日の大量摂取は別の話です。日本陸連の資料も前日は揚げ物・生もの・いもや根菜類といった食物繊維の多いものを避けるほうが無難だとしており、2つの一次資料が同じ方向を向いています。やるべきは④のとおり炭水化物中心の、いつもどおりの食事です。

当日は「競技開始時刻」に食べ終わればいい競技ではない

陸上競技には**招集(コールルーム)**があり、完了できないと出場できません。しかも時刻は種目でまったく違います。大阪高体連陸上競技専門部 第3,4地区「春季地区別記録会」(2026年4月18〜19日・ヤンマーフィールド長居)の競技注意事項から引きます。

種目招集開始招集完了
トラック競技開始30分前20分前
跳躍50分前40分前
投てき60分前50分前
棒高跳80分前70分前

同要項は「下記の時間帯に招集を完了できなかった場合は出場できない」と明記。棒高跳なら、競技開始の1時間10分前にはもう招集所にいるわけです。

逆算のやり方

陸連が示す「3〜4時間前」を、競技開始ではなく招集完了時刻から引く。これが陸上競技での正しい引き算です。9時開始なら食事の時刻はトラックで4:40〜5:40、跳躍で4:20〜5:20、投てきで4:10〜5:10、棒高跳では3:50〜4:50。競技開始から引くのと比べ、種目により最大70分ずれます。

現実的にこの時刻に普通の朝食は入りません。だからこそ**当日は「朝食を分割する」**という発想になります。消化の負担を下げる工夫については、日本陸連も発信しています。

日本陸上競技連盟@jaaf_official

【#アスリートレシピ】#JAAF #スポーツ栄養 #陸マガ #陸上選手の食事 #陸上選手の食習慣 今回は「よく噛んで食べよう!」(2022年3月号掲載) よく噛んで食べることで消化への負担が減る😄 わかっているけどできない…そんな選手は食材選びを工夫してみよう☝️

「よく噛む」は当日朝の現実的な一手。同じおにぎり1個でも、噛めば消化の負担は下がります。

当日朝の時間割|午後開始には公式の例がある

午後開始なら公式の例が近い形で使えます。日本陸連「試合時の食事のポイント!」の当日タイムスケジュールは、予選12:00・準決勝17:00という2ラウンドの日を想定し8:00朝食/10:45補食①/12:45昼食/15:45補食②/17:45補食③/19:30夕食と並べます。レース後は**「なるべく早いタイミングで一度栄養を補給し、その後でしっかりと夕食を食べましょう」**。1ラウンドの日は補食②③を減らして読み替えます。

**困るのは午前開始のほうです。**9時開始・招集完了7時50分の日に、昼スタートの例は当てはまりません。以下の3パターンは編集部が作った例(公的に定められた時間割ではありません)。時刻は招集完了から逆算しています。

①棒高跳・投てき 9:00開始②トラック 9:00開始③トラック 13:00開始
招集完了7:50〜8:108:4012:40
主となる食事(招集完了の3〜4時間前)4:30・入るだけ5:009:00
移動中の補食6:006:3010:00
会場着・アップ開始前7:007:3011:30
招集所へ向かう前7:308:2012:20

中身は3パターンとも同じです。主となる食事はおにぎり2個など主食中心(①は入るだけにして残りを移動中へ回す)、移動中はおにぎり1個か傷みにくいパン、アップ前は水分と少量の糖質、招集所へ向かう前はゼリー飲料など液状のもの。固形は早い時間帯に、競技開始に近づくほど液状に——これが骨格です。

**この逆算は本番で初めてやるものではありません。**記録会や練習で1〜2回試してから持ち込んでください。試した時刻と体感は、陸上ノートの書き方と練習記録の残し方の型で残すと次に使えます。

予選と決勝の間

ここにも数値の基準があります。日本陸連「試合時の食事のポイント!」は**「試合の間 1時間あたり体重1kgにつき1〜1.2gの糖質を補給することが理想です」**とし、おにぎり・サンドイッチ・カステラ・エネルギーゼリー・果汁100%飲料を用意しておくよう挙げています。

注意したいのは単位です。練習後の値は1回分ですが、レース間は1時間あたり。体重50kgで予選から決勝まで3時間空くなら150〜180g——前掲の目安値ならおにぎり4個前後で、一度には入りません。予選直後の1回はなるべく早く固形で、競技が近づくにつれてカステラ・ゼリー・果汁100%飲料と液状側に寄せていくのが実務的です。なお招集所に飲食物を持ち込めるかは大会ごとに運用が違うので、要項と係員の指示に従ってください。

水分と塩分は数値で決める

補食とセットで考えたいのが水分です。日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック 第6版」(令和7年6月発行)は、暑熱環境下の運動時に①15〜20分ごとに ②150〜250mLの量の ③飲みやすい温度の ④電解質と糖質を含んだ飲料を補給するよう勧めています。

中身は「0.1〜0.2%の食塩と糖質を含んだものが効果的」、かつ「エネルギーの補給を考慮すれば、4〜8%程度の糖質濃度がよいでしょう」。ラベルでの確かめ方は、前述のJISSハンドブックが具体的です。4〜8%の糖分=100mL当たりの炭水化物4〜8g、0.1〜0.2%の塩分=100mL当たりのナトリウム40〜80mg。

ここが補食と直結します。前節の100%オレンジジュース(濃縮還元)は炭水化物が100g当たり10.7g。飲料は100mLあたりで表示されるので比重の分だけ数字は動きますが、推奨の「100mL当たり4〜8g」よりは明らかに濃い。運動中はスポーツドリンク、ジュースは補食側、と置き場所を分けるのが筋です。

同ガイドブックは脱水が体重の2%以上になると運動能力や競技成績への影響が大きくなるとし、「適切な水分の補給量は、体重減少が体重の2%以内に収まることが目安になります」としています。体重50kgなら練習後の体重減少が1kg以内。飲みすぎにも注意が必要と明記されています。体調管理全般はTRACK HUB NEWSのトレーニング・ケアガイドにまとめています。

よくある質問

補食を足したら太りませんか

前述の研究では、介入群・コントロール群のどちらでも除脂肪量が有意に増加し、両群の変化量に有意な差はありませんでした。論文はこれを「トレーニングによる効果であり、補食による影響は少ない」と考察しています。ただしおにぎり1個・12週間・高校陸上部という条件での結果です。

練習後すぐに食欲がないときはどうすればいいですか

固形が入らないときは、段階を踏んで置き換えるのが現実的です。①100%ジュースや牛乳などの液状 → ②ヨーグルト・ゼリー → ③おにぎり半分・カステラ、と負担の軽い順に試します。JISSハンドブックの食品例にも100%ジュース・牛乳・ヨーグルトが並ぶので、液状から始めても補食として成立します。無理に押し込んで夕食が入らなくなるのは、ハンドブックが避けるべきとする状態そのものです。

中学生でも同じ考え方でいいですか

考え方(3食+補食、練習後はなるべく早く、招集完了から逆算)は同じですが、数字は2か所読み替えます。ひとつは量で、前掲の組み合わせ表の上の行——体重40kgなら「約48g」の行——を見てください。もうひとつは招集時刻。本記事が例に使ったのは大阪高体連 第3,4地区の高校の要項で、招集時刻は大会ごとに要項で定められています。自分が出る大会の数字で引き直してください。なお食事摂取基準では成長期にエネルギー蓄積量が上乗せされます。大きくなる分の材料が別に要る点は、中学生ほど効きます。

からだを大きくしたいときの補食は何が違いますか

JISSハンドブックの**「筋肉増量時の食事のポイント」6項目のうち、2つが補食の話です。⑤補食を利用する——「一度にたくさん食べられない場合は、エネルギー源を確保するため、炭水化物を中心に補食を考えます」。⑥食べるタイミングも大切——「練習後の補食は、たんぱく質(牛乳・チーズ・ヨーグルトなど)に加え、炭水化物(おにぎりやバナナなど)をとると、筋量増加に効果的です」。前掲の組み合わせ表に牛乳200gを足すのが、この⑥そのものです。同章が増量を「体重を増やすというよりも除脂肪量が増加するように」**と定義している点も押さえてください。練習側の設計は陸上の冬季練習メニューが参考になります。

減量中でも補食はとったほうがいいですか

減量中の人ほど、削る場所を間違えがちです。JISSハンドブックは減量時に「し好品や脂質を多く含んだ食品・料理を控える」ことを挙げる一方で、「減量中もご飯、パン、麺類を減らし過ぎないようにしましょう」とも明記しています。前述の研究でも、女子の介入群は菓子類のエネルギー摂取が有意に減っていました(473→238kcal)。減らす対象は主食ではなく菓子です。日本陸連の10か条も第5条は「無理な減量、体調・記録に逆効果」。体重を大きく動かすなら専門家に相談してください。

サプリメントは使ったほうがいいですか

HPSCのスポーツ栄養ページは、IOCの声明「普通に入手できる多くの種類の食べ物から適切なエネルギーを補給していれば、トレーニングや競技に必要な糖質(炭水化物)・たんぱく質・脂質、そして微量栄養素の必要量をとることができる」を引き、勝利につながる特別な食べ物やサプリメントが存在するわけではないとしています。10か条はさらに踏み込み、第4条で**「サプリメント、食事のかわりになりません」「ジュニアにはサプリメントは必要ありません」とし、「食事のほかに、必要に応じて補食も加えましょう」**と結びます。

貧血や疲労骨折が心配です

10か条は第7条で**「エネルギー不足は月経異常や疲労骨折を引き起こす」とし、「数日のエネルギー制限でも性ホルモンを乱れさせ、月経異常が続くと疲労骨折を起こしやすくなります」と説明します。第8条は「女子だけじゃなく男子も注意」で、「エネルギー不足の男子選手では疲労骨折の危険性が高まります」**。前述の論文も、女子選手ではジュニアでも「女性アスリートの三主徴」が認められ、多くは糖質摂取量の不足によるとする報告を引いています。すね・足の痛みへの考え方はシンスプリントの原因と復帰までの進め方にまとめていますが、痛みや不調が続くときは自己判断せず医療機関を受診してください。

まとめ

  • 置き場所は朝練前・午後練習前・練習後の3つと試合当日の逆算。練習前は開始2〜3時間前に炭水化物、後はなるべく早く炭水化物+たんぱく質(JISS)。おやつではなく「食事に近いもの」を選ぶ(日本陸連)
  • 推定エネルギー必要量の土台になる基礎代謝基準値(図9)と小児の身体活動レベルは、運動選手のデータを除いて作られている。報告書自身が過不足の判定には「体重の変化を用いることが望ましい」としている
  • 高校陸上部での12週間の研究では、練習後20分以内におにぎり1個で男子の有酸素性能力の指標が体重増加に依存せず改善。ただし女子では群間差は出ておらず、論文自身が断定はできないとしている
  • 量は運動後に体重1kg×1〜1.2gの糖質(レース間だけは1時間あたりの値)。購買ではおにぎり1個=糖質約40gを基準に「もう1品足す」
  • 前日は安全性優先。生もの・食べ慣れないもの・ガスを発生させやすい食品を避け、炭水化物中心に
  • 当日は試合の3〜4時間前まで(日本陸連)。ただし陸上は招集完了時刻から逆算して朝食を割る
  • 水分は15〜20分ごとに150〜250mL、0.1〜0.2%の食塩と4〜8%の糖質、体重減少は2%以内
  • 日本陸連「エネルギー不足予防10か条」は、エネルギー不足が男女どの種目・どの年齢でも起こるとし、サプリメントは食事の代わりにならないと明記している

補食は続けて初めて意味が出るもので、続いているかどうかは記憶ではなく記録でしか確かめられません。陸上練習ノートアプリ「TRACK HUB」なら、練習内容と一緒に「今日の補食」「レース前に何を何時に食べたか」を残せます。うまくいった日の時間割が1行残っていれば、次の大会でそのまま再現できます。