競歩のルールは、覚えることが2つしかありません。両足が同時に地面から離れないこと(ロス・オブ・コンタクト)と、前に出した脚を接地から垂直まで曲げないこと(ベント・ニー)。この2つだけです。複雑なのは「反則だと何が起きるか」で、レッドカード3枚で失格になるレースと、3枚では待機だけで済むレースがあります。この記事では日本陸連の2026年度競技規則・第6部(TR54)を条文から開き、判定の流れと数字を表にしました。高校の公式リザルト4レース68人ぶんも実際に数えています。

この記事でわかること

  • 競歩の2つの反則と、審判員が何をどこで見ているか(競技規則TR54.2)
  • イエローパドル → レッドカード → 失格までの流れと、レッドカードが効力を持つタイミング
  • ペナルティゾーンの待機時間が距離ごとに何秒なのか(現行の表6行)
  • 2026年に日本選手権の競歩が20km・35kmからハーフマラソン・マラソンへ変わったこと
  • 高校の5000m競歩の記録の目安と、公式リザルトで失格が何件出ているかの実測

競歩のルールは「2つの反則」だけ

日本陸連の2026年度競技規則・第6部「競歩競技」は、競歩をこう定義しています(TR54.2)。

競歩とは、両足が同時にグラウンドから離れることなく歩くことをいう(ロス・オブ・コンタクトにならない)。前脚は、接地の瞬間から垂直の位置になるまで、まっすぐに伸びていなければならない(ベント・ニーにならない)。いずれも目視で判定する。

短い条文ですが、競歩のルールはここに全部入っています。反則は2種類、そして判定は目視。この3点を押さえれば、レースで何が起きているかは読めるようになります。

朝の周回コースで競歩の練習をする3人の選手

反則何が起きているか審判員が見ている場所パドル・掲示板のマーク
ロス・オブ・コンタクト両足が同時に地面から離れている(=走っている状態)足が接地しているかどうか〜(波線)
ベント・ニー前に出した脚のひざが、接地から垂直になるまでの間に曲がっているひざの角度。接地の瞬間から垂直位置までの区間<(山形)

マークの記号は日本陸連の「競技会で使用する略号例」に定められたもので、パドルや掲示板、記録用紙の違反マークとして使われます。会場でパドルが示されたとき、波線か山形かを見れば、どちらの反則を指摘されたのかがその場でわかります。

表に書ききれない2つのポイント

ロス・オブ・コンタクトについて。スピードを上げようとすると、人間の体は自然に跳ねようとします。競歩で速く歩くほどこの反則に近づくのはそのためで、トップ選手ほどぎりぎりのところで歩いていることになります。

ベント・ニーについて。ひざを伸ばしておく必要があるのは「接地から垂直まで」という限られた区間だけで、垂直を過ぎたあとは曲がってかまいません。競歩の歩きが独特に見えるのは、脚が体の真下に来るまでひざを伸ばし切る必要があるからです。

判定は「目視」と規則に書いてある

TR54.2は「いずれも目視で判定する」と明記しています。TR54.3.2も、競歩審判員はそれぞれ独立して判定し、その判定は目視による観察に基づいて行うと定めています。

つまり、スローモーション映像やセンサーで機械的に判定するのではなく、人の目で見て明らかに違反しているかどうかを判断する仕組みです。「映像で見れば浮いている」ことと「反則を取られる」ことは、規則のうえではイコールではありません。


イエローパドルから失格までの流れと、レースの見方

反則の種類がわかったら、次は「見つかったらどうなるか」です。ここが競歩のルールでいちばん誤解されているところで、段階が3つあります。

  1. イエローパドル(注意)
  2. レッドカード(警告)
  3. 失格、またはペナルティゾーン

第1段階: イエローパドル

競歩審判員は、その競技者が定義に完全に従っていると確信できないとき、該当する違反のマークが両面に記されたイエローパドルを示します(TR54.5)。「反則だ」と断定したわけではなく、修正を促すための注意です。

規則には、同じ違反に対して同じ審判員から2度のイエローパドルは示されない、という制限があります。パドルを示した審判員は、競歩審判員記入用紙に記入し、競技終了後に競歩審判員主任に提出しなければなりません。

イエローパドルは何枚もらっても、それだけで失格になることはありません。ここは押さえておきたいポイントです。

第2段階: レッドカード

審判員が、ロス・オブ・コンタクトあるいはベント・ニーを目視で確認し、TR54.2に違反していると判定したときに出るのがレッドカードです(TR54.6)。

レッドカードには競技者番号・ビブ番号・違反内容・カード記入時刻を記載し、競歩審判員主任に提出します。そして規則は、各レッドカードは審判員が発行した時点で効力を有すると定めています。主任に届いた時点ではなく、書いた瞬間から有効ということです。枚数が競技者に伝わる経路は、後述する掲示板です(TR54.7.7)。

規則には、可能であればレッドカードを提出する前にイエローパドルを示すことを推奨する、という注記も添えられています。その目的は、競技者が歩行技術を修正できるようにし、より多くの競技者が完歩できるようにすることだと書かれています。

第3段階: 失格

TR54.7.1は、次に説明するTR54.7.3に定める場合を除き、3人以上の審判員から競歩審判員主任にレッドカードが出された時に失格となる、と定めています。告知は主任または主任補佐がレッドパドル(両面赤色)を示すことで行われます。告知できなくとも、失格が取り消しになることはありません。

ここで大事なのは、レッドカードを出したのが3人「以上」の審判員だという点です。日本陸連の競歩ナビは、審判員は1人の選手に対してどちらかのレッドカードしか出せないと説明しています。つまり1人の審判員から積み上がることはなく、異なる審判員が3人、独立に同じ判断をしたときにはじめて失格になる設計です。TR54.3.2が、競歩審判員はそれぞれ独立して判定すると定めているのと対になっています。

審判員は何人いるのか

ではその審判員は何人いるのか。規則に人数が書かれています。

レースの種類競歩審判員の人数(主任を含む)
道路競技通常6人から9人(TR54.3.4)
トラック競技通常6人(TR54.3.5)

さらに、判定の偏りを避けるための規定があります。ワールドランキングコンペティション定義1.(a)(b)に該当する競技会では、ひとつの加盟団体から2人以上の国際審判員(主任を除く)は任命されません(TR54.3.6)。国内でも、日本陸連が主催・共催する競技会では、同一の都道府県陸協から3人以上の競歩審判員(主任を除く)は任命されないと定められています。特定の国や地域の審判員に判定が偏らないようにするための仕組みです。

残り100mだけの特別ルール

もうひとつ、あまり知られていない条文があります。TR54.4.1です。

ワールドランキングコンペティションに該当する競技会と、日本陸連が主催・共催する競技会では、残り100mからフィニッシュまでの間に競技者の歩型がTR54.2に明らかに反する場合、それまでのレッドカードの有無に関わらず、競歩審判員主任が単独でその競技者を失格にする権限を持ちます。

つまり、レッドカードが0枚でも、最後の100mで歩型が崩れれば失格になり得るということです。ただしこの場合、失格となっても競技者はフィニッシュすることが認められ、失格はレース終了後にレッドパドルで告知されます。

競歩の終盤で、勝負が決まっていても選手が急にスピードを上げない場面があります。この条文を知っていると、その理由が見えてきます。

歩型以外で失格になるケース ―「イエローカード」が出るのはここ

「競歩 ルール イエローカード」と検索されることがありますが、歩型の注意に使われるのはカードではなくイエローパドルです。競技規則で競歩に「イエローカード」という語が出てくるのは、歩型ではなく飲食物の条文のほうです。

TR54.10.8は、競技者が医学的理由または競技役員の指示によらずに、主催者が設置した供給所以外で飲食物や水を受けたり自分で取ったりした場合、1回目の違反であれば警告(国際競技会では通常イエローカードの提示で知らせる)、2回目の違反があったら失格させる(国際競技会では通常レッドカードを提示する)と定めています。

つまり競歩の失格には、歩型で3枚(または4枚)に達する経路のほかに、給水などの違反で2回目に達する経路もあります。飲食物の供給所は、10kmを超えるすべての種目で周回毎に設置されます(TR54.10.3)。自分のボトルを置ける場所とタイミングは決まっている、と考えてください。

コースを外れることでも失格になります。TR54.13は、審判長が、競技者がコースをはずれて距離を短くしたと判定した場合は失格になると定めています。ここまでを整理すると、競歩の失格には ①歩型でレッドカードが規定枚数に達する ②残り100mで主任が単独で失格にする(TR54.4.1) ③飲食物の違反が2回目に達する ④コースを短縮する、の4つの経路があることになります。

観戦するときは掲示板を見る

競歩は、見ている側が枚数を知る手段まで規則で用意されている競技です。

TR54.7.7は、ひとつまたはそれ以上の掲示板を、競歩審判員主任に出された競技者ごとのレッドカードの数を競技者に知らせるために、コース上とフィニッシュ近くに設置しなければならないと定めています。掲示板にはそれぞれの違反マークを掲示します。つまり、誰に何枚出ているか、そしてどちらの反則かが、掲示板を見ればわかります。

道路競歩のコースにも規定があります。TR54.11.1は、競技会では周回コースは1周最長2km・最短1kmとすると定めています。同じ場所に何度も選手が戻ってくるので、掲示板の前に陣取れば、レース展開とカードの推移を同時に追えます。ハーフマラソン競歩なら、1周2kmのコースで10周以上、同じ地点を通過する計算になります。


ペナルティゾーンの待機時間は距離で決まる

「レッドカード3枚で失格」と説明されることが多いのですが、それが当てはまらないレースがあります。ペナルティゾーンが設置された競技会です。

TR54.7.3は、本連盟(国際競技会では競技会統括団体と読み替えます)または主催者が、ペナルティゾーンに関連する規則を適用するとあらかじめ大会要項等に定めたレースでは、ペナルティゾーンを設置しなければならない、と定めています。あくまで「あらかじめ定めたレース」だけが対象で、すべてのレースにあるわけではありません。自分が出る大会にペナルティゾーンがあるかどうかは、大会要項に書かれています。

そのレースでは、3枚のレッドカードを受け取った競技者は、競歩審判員主任または主任から任命された競技役員からペナルティゾーンに入るよう指示され、直ちに入って、所定の時間その中でとどまっていなければなりません。

待機時間の表(2026年度競技規則)

所定の時間は距離で決まります。2026年度の競技規則TR54.7.3に載っている表がこれです。

距離(その長さを含む)ペナルティゾーンでの時間
5,000m・5kmまで30秒
10,000m・10kmまで1分
ハーフマラソン(21,097.5m・21km0975)まで2分
30,000m・30kmまで3分
マラソン(42,195m・42km195)まで4分
50,000m・50kmまで5分

高校生が出場する5000m競歩なら30秒、アジア大会2026で行われたハーフマラソン競歩なら2分、マラソン競歩なら4分ということになります。

待機している間も競技時間は止まりません。フィニッシュタイムにそのまま含まれます。

4枚目で失格、入らなくても失格

ペナルティゾーンを適用するレースでは、失格の条件が1枚うしろにずれます。TR54.7.5は、TR54.7.3を適用するいかなる場合でも、4枚以上のレッドカードが出たら当該競技者は失格となる、と定めています。

また、ペナルティゾーンに入るよう命じられても入らない場合、あるいはゾーン内で定められた時間とどまらないでレースを続行した場合は、審判長によって失格と判定されます。

逆に、レースの終了間際で3枚目が出てしまい、審判長が競技者をペナルティゾーンに入れることができなかったときは、TR54.7.4により、そのフィニッシュタイムに所定の時間を加えて記録を修正し、必要に応じて順位も修正します。逃げ切りは認められていません。

「3枚で失格」と「3枚で待機」の使い分け

整理すると、こうなります。

レース3枚目のレッドカード4枚目
ペナルティゾーンなし(TR54.7.1)その時点で失格—
ペナルティゾーンあり(TR54.7.3・54.7.5)ペナルティゾーンで所定時間の待機失格

「3枚で失格」と聞いて練習している高校生が、国際大会の中継で「3枚でペナルティゾーン」と言われて混乱するのは、この2つの条文を行き来しているからです。どちらが適用されるかはレースごとに決まるので、覚えるのは「要項でペナルティゾーンが定められていれば3枚で待機・4枚で失格、定めがなければ3枚で失格」という対応関係です。

なお国内では、ペナルティゾーンに関連する規則を適用する場合、日本陸連主催競技会を除いて、日本陸連へ事前に申告するものとすると定められています。

古い時間表がネット上に残っている

ここは注意してほしいところです。ペナルティゾーンの待機時間の表は、距離の区分が資料によって違います。

日本陸連が公開している競歩の普及資料「Race walking Navi ~競歩ナビ~ 競歩のルール」(PDF)に載っている表は、20,000m・20kmまで2分、30,000m・30kmまで3分、35,000m・35kmまで3分30秒、40,000m・40kmまで4分、50,000m・50kmまで5分という区分です。

一方、2026年度の競技規則TR54.7.3の表は、上に挙げたとおりハーフマラソンまで2分、30kmまで3分、マラソンまで4分という区分になっています。

この記事では2026年度の競技規則に載っている表を採用しています。実際のレースで適用されるのは、その年度の競技規則です。ネットで見つけた表をそのまま覚えるのではなく、自分が出る大会の年度の規則で確認してください。


2026年、競歩の距離が変わった

競歩の距離を「20km」「35km」「50km」で覚えている人は、いったん上書きが必要です。

2026年度の競技規則TR54.1は、競歩競技の標準となる距離をこう定めています。

コース標準となる距離
ショート・トラック3,000m、5,000m
400mトラック5,000m、10,000m、ハーフマラソン(21,097.5m)、マラソン(42,195m)、50,000m
道路10km、ハーフマラソン(21km0975)、マラソン(42km195)、50km

20kmと35kmが、この一覧に入っていません。代わりにハーフマラソン(21,097.5m)とマラソン(42,195m)が並んでいます。距離にすると、20kmだったところが21.0975kmへ約1.1km延び、42.195kmという新しい距離が加わった形です。実際に行われる距離は大会の要項で決まるので、出場する大会の距離は要項で確認してください。

日本選手権も種目名が変わった

これは紙の上の話ではありません。日本陸連が公式YouTubeチャンネルで配信した第109回日本陸上競技選手権大会・ハーフマラソン競歩の動画説明文には、この大会が愛知・名古屋2026アジア競技大会とブラジリア2026世界競歩チーム選手権大会の日本代表選手選考競技会を兼ねており、昨年まで開催していた日本選手権・20km競歩から距離が変更になったこと、今大会が初の21.0975kmのハーフマラソンの距離で、六甲アイランド甲南大学西側長距離競歩路にて開催されることが記されています。

2026年の日本選手権競歩は、2月15日のハーフマラソン競歩(第109回)と、3月15日のマラソン競歩(第110回・第50回全日本競歩能美大会と同時開催)の2本立てになりました。同じ配信の章立てには、併催のU20選抜が男女とも10km競歩だったことも記されています。高校から大学・U20年代へ進むと、5000mの次に10kmという距離が入ってくる形です。

35km競歩も同じ流れで入れ替わっています。日本陸連の大会ページによると、2025年3月の第49回全日本競歩能美大会は日本選手権・35km競歩を兼ねていましたが、2026年3月の第50回全日本競歩能美大会は日本選手権・マラソン競歩を兼ねています。同じ大会の枠が、35kmからマラソンに置き換わった形です。ただし後述のとおり、日本記録は35km競歩として引き続き記載されています。

★ライブ配信★【第109回日本陸上競技選手権大会・ハーフマラソン競歩】#新時代到来界

アジア大会2026の競歩も、種目名は男女のハーフマラソン競歩とマラソン競歩でした。「20km競歩」「50km競歩」で検索しても今の大会が出てこないことがあるのは、このためです。

日本記録は20km・35kmのまま管理されている

一方で、日本陸連の日本記録一覧(2026年9月29日閲覧)には、20km競歩と35km競歩の日本記録が記載されています。

種目日本記録選手年月日・大会
男子20km競歩1時間16分10秒山西利和(愛知製鋼)2025年2月16日・日本選手権20km競歩(神戸)
男子35km競歩2時間21分47秒川野将虎(旭化成)2024年10月27日・全日本競歩高畠
男子5,000m競歩17分59秒32金子陸(国士館大学)2026年4月5日・東京学芸大学競歩競技会
男子10,000m競歩37分25秒21高橋英輝(富士通)2020年11月14日・順天堂大学競技会
女子20km競歩1時間26分18秒藤井菜々子(エディオン)2025年9月20日・世界選手権(東京)
女子5,000m競歩20分42秒25岡田久美子(ビックカメラ)2019年5月18日・東日本実業団
女子10,000m競歩42分51秒82岡田久美子(ビックカメラ)2019年12月8日・長崎陸協競歩大会

なお、山西選手の1時間16分10秒について、日本陸連は第108回日本選手権20km競歩のレポートで、当時の世界記録1時間16分36秒を26秒上回る世界新記録だったと報じています。


アジア大会2026で実際に起きたこと

ルールの条文だけでは、実感がわきません。2026年9月に名古屋で行われたアジア競技大会の競歩で、日本代表に何が起きたかを見てみます。

日本陸連の日本代表結果一覧(2026年9月28日更新版・9月29日閲覧)によると、競歩4種目の日本勢の成績はこうでした。

TRACK HUB RESULTS

愛知・名古屋2026アジア競技大会 陸上競技(競歩4種目・日本代表)

2026-09-23〜27

男子ハーフマラソン競歩 決勝

順位選手所属記録備考
2山西利和1時間28分01秒銀メダル
4吉川絢斗1時間29分28秒

男子マラソン競歩 決勝

順位選手所属記録備考
1勝木隼人3時間03分36秒金メダル
3諏方元郁3時間08分57秒銅メダル

女子ハーフマラソン競歩 決勝

順位選手所属記録
4柳井綾音1時間39分24秒
7杉林歩1時間46分13秒

女子マラソン競歩 決勝

順位選手所属記録備考
3梅野倖子3時間34分59秒銅メダル
4矢来舞香3時間36分40秒

競歩だけで金1・銀1・銅2の4個。この大会の日本の陸上メダルの一角を、競歩が占めました。金メダルの男子マラソン競歩については、専門誌の公式アカウントがフィニッシュの様子を伝えています。

月陸Online/月刊陸上競技@Getsuriku

#名古屋アジア大会 マラソン競歩 男子 勝木隼人(自衛隊体育学校)が優勝!! 3時間3分36秒で、18年ジャカルタ大会50km競歩に続く金🥇 最後の1周は沿道の声援にガッツポーズで応えながらのウイニングウォーク👏

2026年9月27日Xで投稿を見る →

レッドカード3枚と、2分の待機

そのうち男子ハーフマラソン競歩の山西利和選手(愛知製鋼)は、レース中にペナルティゾーンに入っています。

日本陸連が掲載した本人のコメントによると、増えていったレッドカードはロス・オブ・コンタクトによるもので、明らかにここが悪いという感覚が自分にはなく、コーチとのやりとりでも出てこなかった、と語っています。終盤はペースを上げたくても上げられない状態で、赤だけでなくイエローも出ていたため「とにかく2番をキープするしかない。4枚目(失格)が怖い」という気持ちだったと述べています。

ここまで読んできた条文を当てはめると、この状況は次のように読めます。

  • 種目はハーフマラソン競歩 → ペナルティゾーンの待機時間は2分(TR54.7.3の表)
  • 3枚目のレッドカードでペナルティゾーンに入る(TR54.7.3)
  • 次の1枚、つまり4枚目が出たらその時点で失格(TR54.7.5)
  • 待機の2分はフィニッシュタイムに含まれる

「4枚目が怖い」という言葉は、比喩ではなく規則そのものです。残り数kmを、レッドカード1枚で失格という状態のまま、しかもスピードを上げられずに歩いていたことになります。

あわせて、競歩は「失格しなければ勝ち」ではなく「失格しない範囲でどれだけ速く歩けるか」を競う競技だということも見えてきます。技術が崩れた瞬間、選手は速さを捨てて安全側に寄るしかありません。


反則にならない歩き方をつくる

ここからは、実際に歩く側の話です。技術の指導には流派がありますが、規則から確実に言えることがあります。この3点は、どの立場でも共通です。

規則から逆算した3つのチェックポイント

チェックポイント規則上の根拠具体的に意識すること
接地の瞬間にひざが伸びているかTR54.2「接地の瞬間から垂直の位置になるまで、まっすぐに伸びていなければならない」かかとから接地し、その時点でひざが伸びている状態をつくる
垂直を過ぎるまで伸ばし続けているか同上。区間は接地から垂直まで体重が脚の真上に乗るまで、ひざを抜かない
足が地面から離れる時間をつくっていないかTR54.2「両足が同時にグラウンドから離れることなく歩く」足を高く上げず、低く運んで前に置く

3つ目は、スピードを上げようとするときに最初に崩れる部分です。速く進もうとしてひざを高く上げたり、後ろで大きく蹴ったりすると、体が上に跳ねてロス・オブ・コンタクトに近づきます。競歩でストライドを伸ばすときは、前に大きく踏み出すのではなく、接地した足を後ろに長く残す方向で考えるのが基本です。

骨盤の動きが大きく見えるのも、この制約から来ています。ひざを曲げずに歩幅を確保しようとすると、脚の長さを変えられないぶん、骨盤の回旋と上下動で距離を稼ぐことになります。独特のフォームは、見た目を狙ったものではなく、規則を満たしたまま速く進もうとした結果です。

腕振りと接地ラインも、この骨盤の動きとつながっています。腕をコンパクトに振る、足を進行方向の一直線に近いところへ置く、といった点は多くの指導者が共通して挙げるところですが、規則がそこまで指定しているわけではありません。ここから先は流派が分かれる領域だと考えてください。

この記事が規則から言い切れるのは、上の3つのチェックポイントまでです。技術の言い方は指導者によって変わりますが、目的は「接地の瞬間にひざが伸びている状態を、疲れてきても保てるようにする」の一点に収束します。迷ったら3つのチェックポイントに戻り、それ以上の細部は自分のチームの指導方針に従ってください。

よくある崩れと、直すときの考え方

症状起きていること見直す場所
スピードを上げるとレッドカードが増える跳ねてロス・オブ・コンタクトになっているピッチを上げる方向で速くする。足を低く運ぶ
疲れてくると終盤にカードが出るひざを伸ばし続ける筋力が持たなくなっている歩く距離の総量と、脚まわりの補強
左右どちらかだけ指摘される片側の接地でひざが抜けている動画を真横から撮って左右を比べる

接地とひざの角度は、正面や後ろからでは判断できません。動画で確認するなら、スマートフォンを膝から下が画面に大きく入る高さに置き、進行方向に対して横から撮るのが手軽です。編集部で試した範囲では、5〜8m離して撮ると1歩が画面に収まり、接地の瞬間にひざが伸びているかを見分けやすくなりました。規則の判定が目視である以上(TR54.2)、まずは目で見てわかるレベルの崩れを消すのが先です。

数値の目安を1つ置くとすれば、ペースです。5000m競歩を20分で歩くなら1kmあたり4分00秒、22分30秒なら1kmあたり4分30秒。この配分から逆算して、練習では1000mを目標ペースちょうどで数本、つなぎをゆっくり歩いて挟む形が組みやすくなります。後述のとおり、崩れは決まって後半に出るので、設定より速く入らないことが失格対策そのものになります。

脚を伸ばしたまま長時間歩く動作は、ふくらはぎやすねに負担が集中しやすいものです。歩く量を急に増やすと、すねの内側の痛みにつながることがあります。痛みが出たら量を落とし、続くようであれば専門家に相談してください。すねの痛みの見分け方はシンスプリントの治し方と疲労骨折との違いでまとめています。脚を支える筋力づくりは陸上の補強トレーニング32種目が参考になります。


高校の5000m競歩はどれくらいか【公式リザルト実測】

「競歩を始めたいけれど、どの大会に出るのか」「どれくらいのタイムが必要なのか」。ここは公式の資料で確認できます。

トラックで競歩の練習をする2人の選手を真横から見た様子

全中に競歩はない。全国大会は高校から

令和8年度全国中学校体育大会 第53回全日本中学校陸上競技選手権大会要項(日本陸連掲載)で、実施種目を確認しました。

  • 男子13種目: 100m、200m、400m、800m、1500m、3000m、110mH、4×100mR、走高跳、棒高跳、走幅跳、砲丸投、四種競技
  • 女子10種目: 100m、200m、800m、1500m、100mH、4×100mR、走高跳、走幅跳、砲丸投、四種競技

競歩は入っていません。中学の全国大会には競歩種目がなく、全国レベルの競歩は高校の5000m競歩から始まります。都道府県の高校総体でも男女とも5000m競歩が実施されています(種目表記は5000mW)。中学・高校の全国大会の結果はインターハイ・全中・日本選手権の優勝者一覧にまとめています。

記録の目安

公式リザルトのヘッダーに記載された日本高校記録と、県大会上位のタイムを並べます。

区分記録選手・大会
男子5000m競歩 日本高校記録19分20秒59山田大智(西脇工・兵庫)2025年
女子5000m競歩 日本高校記録21分33秒44藤井菜々子(北九州市立・福岡)2017年
男子・県高校総体 優勝(2026年)20分07秒61辻那悠太(市西宮)大会新
女子・県高校総体 優勝(2026年)22分52秒74逢坂ひかり(市西宮)
男子・県高校総体 8位(2026年)24分12秒51―
女子・県高校総体 8位(2026年)28分14秒69―

県大会の数字は第70回兵庫県高等学校総合体育大会(陸上競技)の公式リザルト(2026年5月31日・ユニバー記念競技場)から取りました。この大会では、8位が男子24分12秒51・女子28分14秒69でした。入賞ラインは都道府県や年によって動くので、あくまで1大会の実測値として見てください。

1kmあたりのペースと時速に直すと

競歩の記録は、ペースに直すとイメージがつかみやすくなります。上の記録を編集部で1kmあたりのタイムと時速に換算しました。

記録1kmあたり時速
男子5,000m競歩 日本記録 17分59秒323分35秒9約16.7km
男子20km競歩 日本記録 1時間16分10秒3分48秒5約15.8km
男子5000m競歩 日本高校記録 19分20秒593分52秒1約15.5km
男子・県高校総体優勝 20分07秒614分01秒5約14.9km
男子マラソン競歩 アジア大会優勝 3時間03分36秒4分21秒1約13.8km
女子5,000m競歩 日本記録 20分42秒254分08秒5約14.5km
女子5000m競歩 日本高校記録 21分33秒444分18秒7約13.9km
女子20km競歩 日本記録 1時間26分18秒4分18秒9約13.9km
女子・県高校総体優勝 22分52秒744分34秒5約13.1km

この表を作っていて、ひとつ気づいたことがあります。女子の5000m競歩の日本高校記録(1kmあたり4分18秒7)と、女子20km競歩の日本記録(同4分18秒9)が、0秒2しか違いません。

そしてこの2つは、同じ選手のものです。藤井菜々子選手が2017年に高校生として5000mで刻んだペースを、2025年の世界選手権では4倍の20kmで維持した、ということになります。競歩における「記録が伸びる」とは何なのかが、この0秒2に表れています。

ペース配分は「イーブン」が正解に近い

兵庫県高校総体の公式リザルトには、1000mごとの途中時間も載っています。2025年大会の男子優勝者と2026年大会の女子優勝者について、編集部で1000mごとのラップに直したのが下の表です。

区間山田大智(2025年男子優勝・のちに日本高校記録を更新)逢坂ひかり(2026年女子優勝)
1000m4分01秒4分13秒
2000m4分06秒4分28秒
3000m4分08秒4分36秒
4000m4分07秒4分46秒
5000m4分04秒724分49秒74
合計20分26秒7222分52秒74

山田選手は1000mごとのラップが4分01秒から4分08秒の7秒幅に収まり、最後の1000mを上げてフィニッシュしています。もう一方は1000mごとに10秒前後ずつ落ちていき、最初と最後で36秒の差がつきました。

競歩では、後半にペースが落ちること自体より、落ちる過程でひざが抜けてカードが増えることのほうが怖い展開です。入りを抑えることは、タイムだけでなく失格対策でもあります。

失格はどれくらい出るのか【4レース68人を数えた】

競歩を始めるときにいちばん不安なのが失格でしょう。実際にどれくらい出るのかを、公式リザルトから数えました。

対象は兵庫県高等学校総合体育大会(陸上競技)の5000m競歩、2025年・2026年の男女4レースです。出場した68人の結果を1行ずつ分類しました。

レース出走完歩途中棄権失格
男子(2025年6月1日)171322
男子(2026年5月31日)181332
女子(2025年6月1日)151140
女子(2026年5月31日)181350
合計6850144

失格は68人中4人、率にして5.9%でした。4件はすべて男子で、男子35人に限れば11.4%です。女子の2レース33人からは、2年とも失格が1件も出ていません。

ただしこの4件のうち1件は、後述のとおり競歩の反則ではなく「他の競技者を妨害した」ことによる失格です。歩型の反則に限れば3件で、68人中4.4%、男子35人中8.6%になります。

もうひとつ目立ったのが途中棄権の多さです。14人、率にして20.6%と、失格の3倍以上いました。少なくともこの4レースでは、完歩できなかった原因は失格よりも5000mを歩き切れなかったことのほうが多かったことになります。1つの県の2年ぶんの数字なので全国の傾向とまでは言えませんが、競歩を始めるならまず距離を歩ける脚をつくることが優先だ、という方向は読み取れます。

公式リザルトの失格コードは「どちらの反則か」まで教えてくれる

この4件を数える過程で、知っておくと便利なことがわかりました。競歩の公式リザルトは、失格の理由を記号で書き分けています。日本陸連の「競技会で使用する略号例」には、競歩の失格理由を示す略号例として次の5つが挙げられています。

略号内容規則番号
K1ロス・オブ・コンタクトで3名以上がレッドカードを出したTR54.7.1
K2ベント・ニーで3名以上がレッドカードを出したTR54.7.1
K3ロス・オブ・コンタクトとベント・ニーで3名以上がレッドカードを出したTR54.7.1
K4ロス・オブ・コンタクトで競歩主任が単独で失格にしたTR54.4.1
K5ベント・ニーで競歩主任が単独で失格にしたTR54.4.1

K4とK5が、さきほどの「残り100mの主任単独失格」に対応する略号です。リザルトにK4やK5が並んでいたら、そのレースの最後の100mで何かが起きたということになります。

なお、この資料は失格の理由を示す略号は主催団体が決めてよいとしたうえでの参考例です。実際の記号と意味は、そのリザルトの下部にある凡例で確認してください。

今回数えた4件の内訳は、K1が1件、K2が1件、K3が1件、そして競歩とは関係のない「他の競技者を妨害した」による失格が1件でした。つまり競歩の反則による失格は3件で、ロス・オブ・コンタクト・ベント・ニー・両方が、きれいに1件ずつだったことになります。

自分や部員が失格になったとき、この記号を見れば、どちらを直せばいいかがその場でわかります。K1なら跳ねている、K2ならひざが抜けている、K3なら両方。次の練習で何を直すかが、リザルト1枚で決まります。

3件はいずれもTR54.7.1、つまりペナルティゾーンのないレースでレッドカード3枚に達したケースでした。少なくとも今回数えた兵庫県の4レースでは、ペナルティゾーンではなく3枚失格の運用だったことになります。自分が出る大会がどちらかは、必ず大会要項で確認してください。


よくある質問

競歩の途中で走ってしまったらどうなりますか?

即座に失格になるわけではありません。両足が同時に地面から離れた状態(ロス・オブ・コンタクト)を審判員が目視で確認し、レッドカードを出します。3人以上の審判員からレッドカードが出た時点で失格です(TR54.7.1)。ペナルティゾーンを設置しているレースでは、3枚で待機、4枚で失格に変わります(TR54.7.3・TR54.7.5)。

イエローパドルは何枚まで大丈夫ですか?

イエローパドルは注意であって、何枚示されてもそれだけで失格になることはありません。ただし、同じ違反に対して同じ審判員から2度は示されない決まりです(TR54.5)。パドルが出たら、その審判員の次の判断はレッドカードになり得ると考えて、その場でフォームを修正するのが前提の仕組みです。

ペナルティゾーンに入らなかったらどうなりますか?

TR54.7.3は、ペナルティゾーンに入るよう命じられても入らない、あるいはゾーン内で定められた時間とどまらないでレースを続行した競技者は、審判長によって失格と判定されると定めています。逆に、レース終了間際で入れることができなかった場合は、審判長がフィニッシュタイムに所定の時間を加えて記録を修正し、必要に応じて順位を修正します(TR54.7.4)。

中学生でも競歩の大会に出られますか?

全日本中学校陸上競技選手権大会の実施種目(男子13種目・女子10種目)に競歩はありません。全国規模の競歩は高校の5000m競歩からになります。地域の記録会や陸協主催の競歩大会で中学生の種目が設けられている場合があるため、出場を考えているなら都道府県陸協の大会要項を確認してください。

競歩の時速はどれくらいですか?

男子20km競歩の日本記録1時間16分10秒は、1kmあたり3分48秒5、時速にして約15.8kmです。女子20km競歩の日本記録1時間26分18秒は1kmあたり4分18秒9、時速にして約13.9kmになります(いずれも編集部が日本陸連の日本記録から換算)。高校の県大会優勝レベルでも時速13〜15km前後で、ひざを伸ばしたまま歩いている速度としては相当なものです。

競歩のシューズに規定はありますか?

あります。しかも競歩は、陸上競技のなかで特別な扱いを受けています。日本陸連の2026年度「競技用靴に関する規程」付属書2の「陸上競技用シューズ ソールの厚さ表」は、次のように定めています。

競技種目ソールの最大厚
トラック種目(競歩を除く)、跳躍種目、やり投20mm(スパイクシューズ/ノン・スパイクシューズとも)
競歩種目(トラック、道路)、道路競走種目40mm

注目してほしいのは「トラック種目(競歩を除く)」というただし書きです。5000m競歩をトラックで行う場合でも、上限は20mmではなく40mm。競歩はトラックで実施しても、道路競走と同じ40mmの枠で扱われます。ソール厚の考え方は陸上の厚底シューズとトラック20mm規定でも解説しています。


まとめ

競歩のルールで覚えるべき核は、やはり2つの反則です。

  • 反則はロス・オブ・コンタクトとベント・ニーの2つだけ。判定は目視(TR54.2)
  • イエローパドルは注意。何枚でも失格にはならない(TR54.5)
  • レッドカードは審判員が発行した時点で効力を持ち、3人以上から出れば失格(TR54.6・TR54.7.1)
  • ペナルティゾーンを設けたレースだけは、3枚で待機・4枚で失格に変わる(TR54.7.3・TR54.7.5)
  • 待機時間は距離で決まる。5000m競歩なら30秒、ハーフマラソン競歩なら2分、マラソン競歩なら4分
  • 2026年度の標準距離はハーフマラソン(21,097.5m)とマラソン(42,195m)。20km・35kmは標準距離の一覧にない(TR54.1)

そして数字の側から見えたのは、今回数えた4レースで完歩できなかった最大の理由が失格ではなく途中棄権だったこと(68人中、失格4人〔うち歩型の反則は3人〕に対して途中棄権14人)、そして女子の5000m高校記録のペースと20km日本記録のペースが0秒2しか違わなかったことです。競歩は、正しい歩型を「どれだけ長く保てるか」の競技だと言い換えられます。

アジア大会2026の大会全体の日程と日本代表はアジア大会2026陸上の日程×日本代表ガイドにまとめてあります。

競歩は、1kmごとのラップとレッドカードの枚数を並べて振り返ると、次にどこを直すかがはっきりする競技です。陸上練習ノートアプリ「TRACK HUB」なら、レースの途中時間と、その日のフォームで気づいたことを同じ画面に残せます。3か月前の自分が同じ区間でどう崩れたかを見返せるようになると、フォームの修正は一気に早くなります。